先日某絵具店の方(笑)と電話でいろいろとお話したのですが、電気炉でのニオイの発生をどうするかという質問がお客様からあったとのことでした。
まず、エントツのあるガス窯ではニオイがすることはありません。
焼成で発生するニオイはエントツを通じて排気されてしまうからです。
やきものの製造工程の中でニオイを感じる作業はいくつかあるかと思います。
自分で窯を焚かない人でも想像できるのは、油性撥水剤の溶剤臭でしょうか。
また焼成中であれば燃料や炉内に炭素が多いとニオイを感じます。薪窯でも薪が燃える特有のニオイを感じます。「あぁ薪窯焚いてるな〜」というニオイです(笑)。
電気炉の場合、焼成中であればいくつかのニオイ発生条件があるかと思います。
まず素焼きですが、わずかですが焼成初期段階で粘土が含む有機物の燃える際に発生する独特のニオイを、窯の周囲でわずかながら感じることがあります。また還元焼成を行う方も、ガスを投入すればさらに強いニオイを感じることでしょう。
ちなみに一酸化炭素が出てると言われる方もいますが、一酸化炭素は無臭ですから、このニオイは完全燃焼しきれていないガスの排気のニオイです。ストーブなどでも起こりえますから本格的な冬到来の前にこちらもご確認ください。
日本ガス石油機器工業会のサイト https://www.jgka.or.jp/gasusekiyu_riyou/anzen/co/index.html
しかしそうしたニオイも、アレに比べればそこまでひどくもありませんし、そこまで周囲に迷惑をかけることもないでしょう。
では。
電気炉の焼成でもっともニオイが気になる時とはいつでしょうか。
実は金液等の焼き付け工程です。
金液や銀液等を使用した作品の焼成では、どうしても金液が含む樹脂等が燃えるニオイがします。おおよそ400〜500℃ぐらいまで確認されるこのニオイは、かなり独特のものです。
瀬戸などの陶産地を歩いていると時々このニオイが漂ってくることがあります。
わたしや経験のある人であれば「あぁ金を焼き付けているんだなぁ」と微笑ましく思いますが、何も知らない人にとってはただの異臭と感じるだろうとも思います。
そもそも金を塗る際に使用する金油がなかなかのニオイです。
こうした作業を自宅陶芸で行うには、周囲の人を不安にしないようにニオイ対策をする必要があるでしょう。
換気扇を回すにしても、人通りの多い通学時間や、お隣がバルコニーでせっせと洗濯物を干しているタイミングは避けておきたいものです。ニオイのピークを、深夜か、逆に真っ昼間の地域人口がもっとも下がる時間帯に持っていくしかないかもしれません。
後ろめたいことがなければそんなことをしなくても(笑)という声を聴きそうですが、人間というものはご近所が変なことをするのに意外と敏感です。これは築炉業に関わってきたわたしの実体験でもあります。突然お隣がエントツを立てたりするとしっかりとチェックしているものですし、その家の人には聞かないで、わたしたち業者に探りを入れてこられることはよくあります。
ましてその後にニオイや煙が出てきたとなると、ご近所トラブルにもなりかねません。密集する住宅地の方に、わたしが灯油窯をオススメしない理由もここにあります。無煙タイプでも少しは煙が認めらえますし、ブロアーの音もそこそこするからです。
金液などの焼成によるニオイの元は、液に含まれる樹脂などの燃焼によるものです。ということは「ある程度は」その量によってニオイの強弱は「多少は」変動するかと思います。
壺の表面を全部金彩するとか、打倒三輪家とか思われている方は、そうとうニオイが発生するということを覚悟するか、ガス窯で行うといいでしょう。
電気炉の方はお住まいの環境に合わせて少しづつ様子を見ながら行ってみてください。
まずはカップの縁とか、お雛様の着物にチョンと塗る程度から様子を見て、これぐらいニオイがするんだな、と把握しながら行うべきでしょう。
まぁ新しいギターアンプを買ったり、でっかいテレビを買ったときに、近所が許してくれるボリュームの勘所を探るような感じですね(違うわ!)。
よく言われることですが、ご近所トラブルを避けるためにも、初窯の記念品を配るとか、日頃の井戸端会議で「すっごく小さな窯でチョコチョコっとしたもの焼いてるのよ〜」と現状を過小気味に伝えておくのもいいかもしれません。まぁとにかく、やきもの屋は周囲とは仲良くしておくべきです。
マンションやそうした近所づきあいが希薄な環境の方であれば、なるべくニオイや音などで周囲を不安にしないような対策は考えておいたほうがいいかと思います。
(波佐見:陶壁「陶磁の路」部分 イノウエ撮影)