2020年12月31日

本年もお世話になりました。

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今年はダメかなと思っておりましたが、自宅陶芸をする方からの発注やお問い合わせをいくつもいただくことができました。
また出張や工事などでも多くの方々に出会い、良き刺激を多くいただくこともできました。
顧客の皆様やこのブログを見てくださっている方も少しづつ増えた一年でもありました。
あらためて御礼申し上げます。

またネットでは、梶田絵具店の梶田さんの動画発信がスタートし、村上金物店さんの通販サイト開設など、ある意味コロナのお陰のようなこともあった気がいたします。

本当にみなさん今年一年お疲れ様でした。そしてありがとうございます。


全国的に寒波が厳しいようですが、どうか皆様健やかなる新年をお迎えください。



ふくおか陶芸窯

井上誠司
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2020年12月21日

陶芸を始める時に必要な道具


今日親類が陶芸を習い始めたという知人を連れてきてくれて、陶芸窯についての説明や世間話をしたのですが。

その方はすでに中古の七宝用の電気炉を購入しており…。
すぐに素焼きしかできないと気づかれたようですが。
(まぁ厳密には素焼きもできないわけですが。)


写真を始める時にカメラを購入しなければならないように、当然陶芸を始めるにも必要な道具というものがあるわけで、そこのところを書いてみます。

わたしの発信ですから「まず窯を手に入れよう!」と普通はなるわけなんですが。 

とはいえ、陶芸を習い始めたばかりの人が、小さな家庭用だとしても、いきなり陶芸用の窯を購入する、ということはいろいろな面で難しいことが多いわけですよ。

じゃあ、「まずは中古でもいいから電動ロクロを購入しよう!」と思うのは自然な考えで、それを否定することも難しく、実際にわたしも築炉メーカー時代に、知り合いのツテで中古の電動ロクロを窯より先に入手したくちです。

しかし。わたしもそうだったからといって、間違っても電動ロクロを先に購入してはいけないのです。

残念ながら、叔父の知人も中古の電動ロクロをも購入しているそうで、ああ、ちょっと遅かったなぁと話をしながら思った次第です。

多くの書籍でも指摘されているように先に電動ろくろを購入すると後悔することになるんです。
家には電動ロクロしかない状態ですので、ただひたすらロクロを練習するようになります。

当然そうなれば多少はロクロ技術は上がっていくかもしれませんが、作品というよりも、正確には作品予備軍ばかりがたくさんできることになります。

陶芸サークルや陶芸教室では、なかなか自分で焼成する機会を得ることはないわけで、釉薬についてもまったく関われないことのほうが多いようです。今日お会いした方が通われているところもまったく釉薬の施釉は人任せとのことでした。

釉薬の濃度調整や施釉に関われないのであれば残念ですが、そこまで技術や認識のレベルは上がっていきません。

そうなれば、ますます電動ロクロばかりをコツコツと頑張ることになっていき、作品予備軍はどんどん部屋に増えていきます。

ところが。

自分がロクロで作って削って乾燥させたものが、正しく焼き上がるかどうかは焼成するまで確認することができません。

そうして窯での焼成工程が自分自身の実体験として持てないまま、電動ロクロの技術がどんどん偏ったものになっていき、あやまった認識を身につける可能性が非常に高くなっていきます。

理想は焼成を通じたものづくりを経験していくことですが、今回は陶芸を始めたばかりで、当然家に窯は無い、ということで話をすすめてみましょう。

少なくとも乾燥工程の理論と実践、釉薬の管理と施釉、ここだけは身につけていただきたい。
教室などに置いたままではなかなか乾燥を実践的に理解していくことは難しいと思いますから、自宅陶芸はレベルの差こそあれ、行っていただきたいと考えています。


ということで、陶芸を始めた方が用意すべき最初の自宅陶芸の道具としては以下のようなものになるでしょう。

  • 正しい作陶技法について書かれた技法書
  • 筆記用具とノート
  • 乾燥をコントロールするための発泡スチロールの箱
  • 粘土のための丈夫なビニール袋
  • 古新聞
  • 雑巾数枚
  • しっぴき
  • 針とコテ
  • コシゲ板やスケッパー
  • 削るためのカンナ類
  • なめし皮もしくは保水性の高い布
  • 霧吹き
  • スポンジ
  • 作品を載せたりする板
  • 土練りする台か板
  • 重量を計測するはかり
  • 釉薬と保存するためのペットボトル
  • CMCなどのノリ
  • 刷毛や筆類
  • ボウル数個
  • きちんとした手ロクロ


このあたりをスタートの道具とするといいかと思います。

絶対に必要と思われている(誤解されている)電動ロクロや撥水剤ははじめは必要なしとします。

またマーキングのための下絵具があってもいいかもしれません。下絵もしっかりとやってみたいということであれば、鉄やゴスなどはらはじめていきましょう。

これが成り立つのは、教室やサークルが自分で施釉したものを無条件で焼成してくれるということです。それが難しい、無理ということであれば、教室を変えるか、自宅に窯を持つことを考える段階だと言えるかもしれません。

作陶において必要な技術と知識を得るためには、実は電動ロクロは必要ありません。
順番からいえば窯の次です。ここ、お間違えなく。


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2020年12月14日

ロクロ上達!一個挽きの効果


先日も紹介した電動ロクロでの一個挽き。
講座でたくさんの方に挑戦していただきました。

初めての方にはロクロ作陶で、自分がいかに底の厚みを把握していないのかを思い知ることにもなったようです。

230〜250gでやってみようと提案していたので、サイズが小さい人はうまく伸ばせていないということにもなります(笑)。

経験豊富な方も、初心者の方にも自分の技術を把握する指標としてわかりやすいという評価でした。
今後は通常のロクロ挽きと同時に、一個挽きでのロクロも指導していきたいと考えています。

そもそも数キロの粘土をロクロで回すのは量産のためであり、必ずそうしなければならないというものではありません。
備前焼や一部の産地、海外の作家さんの発信などでも一個挽きやそれに類する技法を確認できます。

ぜひチャレンジしてみてください。



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同じ大きさの粘土玉ですが徐々に大きくできるようになってきました。


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コチラはかなりいい感じ。


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芋のお湯割りお願いいたします。


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初めてのチャレンジ。2年目の方。


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ベテランのアクションロクロ!







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2020年12月08日

知らないことを知って思う怖さ


電気炉を取り扱うようになって10年以上になります。

最初は自分の窯や知人の窯を触ってみて、というのがスタートでした。
しかし電気についてあまりにも無知な自分に、これはイカンと思って「第二種電気工事士」の免許を取得しました。

とはいえ、免許を取ったら即GPレーサーにならないのと同様で、本当の努力はここから始まります。

幸いわたしには電気工事士の友人が複数いて、アルバイトや酒席での会話を通じていろいろなことを体験し学習させていただきました。

それでも今年になって、実はアレにはこういう部材を使用していますよ、と電気の世界の専門家から教えていただくことがあり、まだまだ知らないことのなんと多いことかと背筋の伸びる思いでした。

うまく例えることができませんが、強いていうのなら100円ショップのカラビナとガチの登山用のカラビナ、素材も価格も大違いですよね。それを混同していたようなこと。

機能は同じですが、それでなにが怖いかっていうと見た目が一緒ってことなんです。
こうした機能が段違いで見た目が一緒というのは、実はいろいろな世界であると思います。たとえばパッと見の要素が同じとか、同じレベルのものに見えるとか(笑)。

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「ねぇねぇイノウエさん、
ネタとして100ショップのカラビナで降下するんですよね?」

みたいな(そこまで酷くないが)ことがあって、本当に自分の無知を思い知りました。



われわれの世界に置き換えれば「陶器なんて、その辺の土を掘って、ちゃちゃっと焼けばできるんでしょ?」と言われたら、アナタはなんと答えるでしょうか(笑)。

わたし?
そうですねぇ。



「じゃあ、やってみろ!」

って言うかな(笑)。





たとえば電気炉というものの仕組みは非常にシンプルです。
ちなみにガス窯など他の窯の構造も同様にシンプルです。

とはいえ、自分にもまだまだ知らないことがあるし、経験していないことが山のようにある。
わたしも若かりし頃はなんでも自分でやってやるぜ!と思っていましたし、実際にそうなるように努力してきました。

しかし、単純に知っているか知らないかという部分でさえ押さえきれていないのに、一体なにを自分だけで出来るんでしょうか。

いろいろな経験を積み、多少は大人になって、いろいろなことが出来るようになったなと丁度思っていたところに、ぴしゃりと冷や水を浴びることになりました(笑)。

電気関係で相談できる人、共栄電気炉製作所の方々、そういう人たちに「聞くは一時の恥権」をもっと行使していこうと思います。

まぁ例えば日曜大工にしろ、窯の補修にしろ、1,2回なら耐えうるかもしれないというレベルの仕事は誰にでも可能かもしれない。冒険野郎マクガイバー的にそういうことはあるでしょう。

しかし危機を一回抜け出せばもう使わないアポロ13の着陸船じゃなくて、恒久的にプロが業務で使用するものをどうこうする、となると経験のない人の作業や、適当なアドバイスは相当な危険を孕んでいると思います。

もちろん自己責任がお好きな人はいろいろなことを自由にやってみる価値は大いにあると思います。やきものの仕事に置き換えればわかりますよね。なんでも窯で焼いて確認するって泥臭いけれども、最強の経験値でもあります。

技術や知識はそうやっていくしか(痛い目にあうしか)伸ばせない時がありますし、無理やり三歩進んで謙虚に二歩下がるのがイノウエのオススメです。



ディスっている割に100V電気炉を愛用している人にもオススメします。




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2020年12月06日

家に窯もロクロも無いアナタにできること

今年の夏頃、5年以上使用した安物ノートパソコンをようやく買い替えました。

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いまどきのノートパソコンは画面がタッチパネルになっていて、便利なものです。

出張や講座で資料を見せたりするときにスマホの画面のように拡大ができるのは便利。

いや、待てよ。
ということはスタイラスペンにも対応か!とようやく気付き、Amazonで購入。

画面に直接描けるということです。

もちろん、それ専用のタブレット端末も数千円から販売されていますから、普通のパソコンの方でもすぐにできますよ。

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対応するアプリも有名で無料なものがいくつもありますから調べてみてください。
実は今年の春の休校時期にムスメに買い与えていたんです。


とりあえず今回はアルパカってやつを初めてインストールしてみました。
これはそもそもマンガを描くことを想定したアプリ。


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ワタシも使い始めたばかりでよくわかっていません(笑)。


ただ便利だなと思うのは、自分のラフスケッチを…

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変形したり、部分だけ拡大したりして、新たな形が見えることでしょうか。

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徐々に慣れてくれば、もっといろいろなことができるとは思います。

今どきのマンガやイラストはこうやって描いているものがかなり多いというか、ほとんどみたいですよ。

そっちの世界にいた友人が昔、〇〇先生はコピー機と修正液の魔術師だぁ!などといっていましたが、いまはパソコンが一つあればできます。

こんなオジサンが初日から出来ます。

タブレットでも使えるアプリ、スタイラスペンもありますから、調べてみてくださいね。

昔バイクトライアルをやっていた頃、「ウチの周りには練習する場所がなくて〜」とエリートクラスの知人にこぼしたら「本当に何もないですか?」とニヤリとされて目が覚めたことがあります。

山に行かなくても、岩場がなくても、雨が降っても、できる練習はありますよね。


やきものでも、陶芸でもそうだと言わせてください。

うちには電動ロクロがない、窯がない、そんなスペースもありません、なんて方がほとんどでしょう。それでも出来ることはあります。

また、うちにはパソコンはない、このブログもスマホでどうにか見てます、という人だって出来ることは山ほどあります。



自分で限界を設定しないようにお互いに頑張りましょう。


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2020年12月05日

上絵と金彩と鉛を語る前に



はっきり言ってこの動画を観た直後、ぜひ多くの人にこれを観てほしいという強い願いと、あのアホどもは観ないでほしいという嫉妬のような感情が同時に沸き起こりました。

窯についてさんざん発信してきてもやっぱりこの程度の心の貧しさ。
情けないものです(笑)。


過去に楽焼の動画で鉛のことをさんざんコメント欄に書かれました。
残念ながら、そのコメントはもうアカウントを本人が消しているようで消えてしまいました。

どんな内容だったかというと、お前のせいで鉛の入った釉薬をつくるところだった、危ないじゃないか、アホ、死ね、みたいなコメントとその返信のやり取りでした。かなりの回数のやり取りをしました。

わたしの返信を要約すると、なにか動画を観たり、釉薬のレシピを一つ二つ知ったからといって、理解はできない、わたしの発信も一つの動画に昇華するまで10年がかりだったりしているんですよ、だからアナタも「分からない、実感や自信がない」ならば、調べながらゆっくりやればいいですよ、というものでした。

時間をかけろと言って納得される方はまずいません。

おそらくその方も仕事ですでに動き始めたことへの情報を求めてのコメントだったようで、納得はしてくださいませんでした。

発信しているお前に責任がある、ということを何回も書かれました。だから、実践して時間かけて…いや答えをちゃんと伝える責任がある…の繰り返しのようなことになったわけです。


鉛が悪い、怖い、毒だ、それは一部は正しいかもしれないけれど、間違いでもあります。
その間違った認識は無知からきている。無知という言葉がキツイのならば、情報の少なさ、だとも言えます。

ものごとを身に着けるには時間がかかります。
そして自分で実践するしかありません。
答えを聞いても解決はしないのです。

わたしも楽焼きの作品を作った時にはさんざん調べて確認もしました。
レベルは低いですが、何年もかけたのです。

最近の若人は長い動画も観れなくなっているらしいですから、とても専門書なども読めないかもしれませんが、中高年も似たようなものです。時間が惜しくなっているのは全世代共通で、ウソでも断言してたくさん言えばホントになったりするのです。



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例えばE=mc2といわれても我々に宇宙の秘密も、光と時間の不思議さも実感できません。

いきなり答えをくれというのは、それに近い。
この公式を利用する準備はできているのか?



引退された方にそのようなお話をさせていただくと、わたしには時間がありません、もう若くないから、と言われることがあります。


だからポンと答えが欲しいということでしょうか?


だったらその答えはE=mc2になっちゃいます。
(ヤンキーも知っている公式第1位:相対性理論)





88歳でやきもの講座に入って初めて陶芸用粘土に触れ、91歳で自分の窯を持ち、94歳からは自分で灰や土も作っている人がいます。いま96歳です。

時間がないと、この方も言われます。
アナタの真逆の意味で。


まぁ意地悪な話はここまでにしましょう。





この上絵の動画。

まちがいなくこれ以上の授業はないでしょう。

アナタがどんな大学に入っても、専門校に入校しても、窯元に弟子入りしても、ここまでの内容を理路整然と教えていただけることはありません。

ありとあらゆる絵具を溶いて塗って焼いたことがあり、それらの使用現場と製造現場をしっているのは梶田さんぐらい、全国でも2,3人いるかいないかでしょう。



そもそもワタシが梶田さんのところで働いていたときには、ノート数冊に及ぶメモを残しましたが、それでも上絵や金彩等についてこんなに詳しく習いませんでしたから(笑)。



それが証拠です。















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2020年12月04日

ロクロ上達の一つのヒント


今日はロクロ上達のためになるヒントを一つ。

先日講座で数人の方に指導した電動ロクロでの一個挽きです。
重さをキチンと測り、フリーカップのようなものを挽いてみます。
ロクロの天板がまぁGLですから、底の厚みがつかみやすいわけですね。

そして以外と難しいのが230〜250グラムていどの土の芯だしと土殺し。
小さいものができればあとは大きくしていけばいいのですが、小さいものをしっかりと芯だしするのは意外と難しいです。

底の面積があまり大きいと持ち上げられなくなりますから(動画参照)、その場合は亀板を使用するといいでしょう。

確実に230グラムでフリーカップができるようになれば、組み合わせたり継ぎ足したりして、様々な器形を求めることができます。

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土の性格から、常にこのようなロクロ挽きをしている産地もありますし、海外の方の動画でもよくみる技法ですね。

いつでも数キロの土を回す必要は、趣味や量産以外の作陶では実は意外とありません。
わたしは窯詰めの最後にガンガンこの一個挽きをしてフリーカップを作ります。
削らないから仕事が早いんですよね。



(全然芯が出てないなぁ)


↓ くっちゃべってない海外向け(笑)バージョン。





一個挽きしてガス窯で炭化焼成(ちょっと失敗気味)のカップたち。

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2020年12月03日

どうすれば陶芸上手になるかしら?

仕事場を整理しておりましたら、数年前の資料がでてきました。
まぁ指導するわたしの基本的なポリシーのようなものです。

ご参考までに載せておきます。

もっとも、これを守るかどうかは受講生に任せてますけども(笑)。



木曜やきもの講座 


講師 井上誠司


どうすれば技術が上がるのか


  • 必ずノートに記録する

  • 数値化する

  • 週に2回以上の頻度を確保する

  • 各工程のつながりを意識する

  • 目標・課題をもつ

  • 自分の欠点を知り、得意を見つける

  • 理論を固めるために知識を得る


陶芸教室でよく見られる失敗


  • ロクロだけに夢中になる

  • 周りに流される

  • 行き当たりばったり

  • 根拠のない知識や技術のコピー

  • 話を聞かない・都合の良い解釈をする

  • 窯変に期待している

  • 材料や素材への無知と無関心




まどかぴあ生涯学習センターでは、これからやきものを始める方々への基礎講座として、この木曜やきもの講座を開講いたします。工作室には、そのための設備がすべて整っています。生涯学習センターはいわゆるカルチャーセンターではありません。みなさんはお客様ではなく、受講生、つまり生徒です。自ら学ぶ姿勢が必要です。週に一度の学校に通っているという認識でこの一年間、一緒に楽しく学んでいきましょう。


はじめに


どんな勉強でもビジョンを持つことがとても大切だと思います。

やきものの基礎を身につけるということが、生涯学習センターの基礎講座の理念です。具体的には、やきものの制作にどんな工程があるのかを知り、その一つ一つの基本的な知識と技術を記録し、身につけること、になります。実際、やきものの制作にはたくさんの工程があります。その基礎を1年間で修めることはなかなか難しいですから、きちんと記録を取るようにしてください。

後述しますが、やきもの作りは実は簡単です。ただ、そのやり方を正しく伝えるところがほとんどないため、世の中には、妙なイメージだけが先行しており、本当の楽しさを知っている人は少ないのです。この講座で講師はなにも隠さずにすべてお伝えしますので、どんどんと質問し、実践するようにしてください。


「陶芸」と「やきもの」


「陶芸」や「陶芸家」という言葉ができてから、実はまだ百年もたっていません。これらの言葉は現在では当たり前に使用されていますが、とても新しい言葉なのです。

みなさんは「陶芸」と聞いてどんなイメージを思い浮かべるでしょうか。わたしは長くこの世界にかかわっていますが、これほど定義があやふやな言葉もない気がしています。

それでは「陶」という文字はどうでしょうか。これは「やきもの」という意味があります。「陶工」という言葉はかなり古くからありますし、「陶器」「陶土」などの言葉もみなさんご存知でしょう。この講座名に陶芸という文字を使用していない理由は、みなさんにイメージが人によって異なる「陶芸」ではなく、土を焼いてものを作る、「やきもの」を意識してほしいと願っているからです。

言葉は少し厳しいですが、みなさんがなんとなくイメージしたり、テレビなどで見聞きする陶芸教室というものは、実はただの粘土細工教室に過ぎないことがほとんどです。焼成の工程にかかわれないのならば、粘土で形を作ることがいくら上手になっても、それはやきものを身につけたということにはならないからです。しかし残念ながら、このことに疑問を持つ生徒や講師に出会ったことがあまりありません。

これは巷の陶芸教室だけの問題ではありません。多くの教育者、教育機関、大学の陶芸専攻の授業でも、その生徒や受講生に、まともに焼成のことを理解させているところはほとんどありません。それどころか焼成専門の助手がいたり、講師が窯焚きしたりして、生徒がまったく焼成にかかわれないところが多いのです。

また、学ぶ人のほとんども、目先の技術的なこと、主に電動ロクロなどに興味を奪われて、それを追求することが陶芸の勉強であると勘違いしてしまいます。少し器用な人なら一年ほど、普通の人でも二、三年もすればある程度ロクロができるようになります。そうなると確かに面白いのです。わたしも焼成実習のまったくない訓練校で、黙々と電動ロクロの技術を磨いていた時には、自分は今まさにやきものの勉強をしているんだ、と勘違いしながら、とても充実した日々を過ごしていました。

本来、陶芸教育は焼成を抜きにしては考えられません。「やきものを作る」ということは、粘土鉱物を高温で焼結させるという工程が絶対条件として必要です。そしてそのことを理解し、実践できなければ、どれだけロクロが上手くなろうと何の意味もありません。

わかりやすく料理にたとえるなら、キャベツの千切りだけがいくら上手になっても、それは料理が上手になったとはいいません。また本や知識の上でレシピをいくらおぼえても、料理というものの根幹を理解しているとはいえないでしょう。大切なのは下手でもいいから、温かい料理を作る努力をすることです。調理が一通りできるようになってから、必要に応じて各工程の技術を磨いていけばいいのです。

料理もそのほとんどは「加熱する」という工程があります。それを理解する一番の近道は、実際に手を動かして、料理を作って食べてみるということです。やきものならば、作って焼いて使ってみるということになります。これを繰り返すことのみが、あなたの作陶レベルを引き上げてくれる唯一の方法です。

下手な作品を窯に入れたくない、自分はまだまだ、などと思ってはいけません。確かに、はじめは失敗作をたくさん作ってしまうでしょう。しかし、それでいいのです。

すべての答えは窯で焼くことでしか得られません。なるべく様々な条件でたくさんの作品を窯に入れるようにしてください。自分がやっていることが正しいのか間違っているのかは、焼成を通してしかわかりませんこれは断言できます。失敗したら、その原因を探り、きちんと記録を残すようにしてください。

また、常識では間違っているというやり方をしたとしても、それがきちんと焼き上がって、その後も再現できるのであれば、その方法は正しいと判断してかまいません。また逆に正しいと思い込んでひたすら努力をつづけ、納得して窯に入れてみたら、その後何度も同じ失敗をしてしまうということもよくあるのです。それはただの遠回り、貴重な人生の時間の浪費でしかありません。


世間一般に言われていることを信じない


実は「陶芸」という言葉ができたのは、一人の陶芸家がつくりだしたからだといわれています。それまでの多くの陶工は主に分業で仕事をし、自分のかかわる仕事についてしか熟練していませんでした。これは今でも大規模な製陶の現場ではあまり変化がありません。ピラミッド構造の分業制度なのです。

また原料などを供給する側も、それぞれの分野に分かれています。製土、築炉、釉薬、絵具などです。これをなるべく一人で行うように腐心したのが初期の陶芸家です。それはこれまでの窯元というシステムが行っていた製造工程を、一人の人間が行うようになった、ということです。そうすることによって芸術家としての価値を高めようとしました。量産ではなく、個人の作品制作にシフトしていったのです。

また、薪の窯しかなかったやきものの世界に、さまざまな燃料の窯が開発されていきます。石炭、重油、灯油、ガス、電気などです。レンガなどの耐火物の品質も飛躍的に向上し、また新しい断熱材なども開発され、いままでになかったような技術革新がおこったのも、この百年未満のこと、ほぼ戦後のことです。ほかにも輸入原料が使われるようになったり、新たな技法や絵具が開発されたり、ほかの産業と同じようにやきものの世界もすさまじい勢いで進化していきました。現在でも日本をはじめ各国で様々な開発や技術の発展を続けています。

多くの人が抱く陶芸」へのイメージは、ほとんど時代遅れで、間違いですもちろんそのイメージを作ろう、守ろうとする個人作家や窯元も多数存在します。それはそのほうが売るためにプラスに働くと考えるからです。必要な演出という部分もあるでしょう。

しかし、やきものを学ぼうとする人がそういうイメージにとらわれることは危険です。みなさんがあるイメージをもっているということは、そうなるように働きかけ、それを支持した人々がいるからです。わたしを含めて、学校などの教育機関や陶芸教室で教わった人はほぼ全員間違った認識や呪縛を持ってしまいます。それを拭い去る努力にも多くの時間を使ってしまいます。

自分の土や窯でのみ通じる事実と、普遍的な真実、科学的な正確さを混同している人は思っている以上に多いのです。迷ったら講師であるわたしに質問し、なによりも自分が焼いたものに答えをさがすようにしてください。他人の無責任な言葉にぶれないように気を付けてください。残念ながら、書籍や技法書かたよりがあり、すべての記述が正しいわけではないということを知っておいてください。


量産の技術と作品作りに必要な技術


みなさんがこれまでの人生で目にしてきた、やきものの技法や窯元の仕事などは、ほとんど量産のためのものです。プロがそうしていたからといって、あなたが同じことをする必要はありません。

ロクロにたくさんの粘土をのせて人より早い回転で回しても、なにも偉くありません。ある意味滑稽でさえあります。よくプロが修業時代に一日千個の湯呑を挽いたなどと伝説のように語られることがあります。しかし見方をかえれば、それは哀しく貧しい労働の時代だったとも言えるのです。魚河岸でアジをひたすら開きにする仕事や、工場で延々とネジを締めるだけの仕事がありますが、それとなにもかわりません。技術をおぼえるために反復練習が必要な時期はありますが、そのために数やスピードを競う必要はみなさんにはありません。はっきり言って百害あって一利なしです。是非とも考えながら丁寧な仕事をするようにしてください。


この一年の目標


この講座で、あなたが目指すべきことは、実にシンプルです。それは一人で全工程を把握し、自分のやきものを作れるようになることです。やきものの最終段階である焼成から逆算して、そこへむかって形作りや釉薬掛けなどを行えるようになることです。

やきもの作りで最初に到達すべきレベルは、通信簿のオール2というレベルです。ある教科だけ5や4をとってもほかが1では何も作り出すことはできないのです。

やきものを作るには様々な工程があり、それぞれにおぼえることがあります。そして時間は限られています。ですからきちんとノートをとるようにしてください。最初の一年で一番大切な道具は、ロクロなどではなく、筆記用具とノートだと思っていただいて間違いありません。なにも頭にすべて記憶する必要はありません。ノートを見ながら制作していったほうが失敗は少ないものです。


最後に


やきもの作りは実は簡単です。そうでなければ一万年以上前から人類が作っているはずがありません。難しくしているのはあなた自身に植え付けられたイメージのせいであり、量産の職人を訓練するような間違ったこれまでの陶芸教育のせいなのです。

たとえば、土練り三年、ロクロ六年などという言葉もまったくのウソです。そんなお話しも講座の中でできると思います。

みなさんは、これから一年をかけて、これまでの呪縛を解きつつ、楽しいやきものづくりに目覚めてください。これから一年間、よろしくお願いします。



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