2022年02月21日

そもそもロクロの前に

まぁまぁハードな週の後半でしたので週末のロクロ動画アップはお休みにしましが(毎週アップだったのか?)、次はちょっとまたホワイトボードでのお話動画にしようかと考えています。

いろいろと指導してきた方々を思い出していた中で、そもそもロクロの前に手びねりというか、ロクロだけではなく、粘土という柔らかい素材に対して、指や手のセンサーがどの程度その人(もしくは自分)にあるのかを確認する必要がある、あった、のではないかと最近考えています。

特に男性の場合、手びねりでそっと摘んだ粘土が伸びるのを感じ取れていない方が結構多かったように思います。「作業としての手の動き」ではなく、「粘土の状態を感じ取りながら手を動かす」は大違いです。

この感覚、はじめから出来ている人には「?」という話です。
でも指導の現場でそういう方に多く接した経験のある方は思い当たる節があるのではないでしょうか。

もちろん、そんな方々をどうこう言っているわけではありません。
このワタシも訓練校に入ったときには前者、出来ないし、感じ取れない側でした(片思いにも気付いてあげれなかった)

焼成の経験もなく、作業としての手の動きさえうまく出来ない。
そしてそれのどこがダメなのかわからない。

こう書くとどうしようもない人間のようにも聞こえますが(笑)、実際にはそういうアマチュア作陶家の方、多いと思いますよ。

いまこれをお読みになって「いるよね〜。まぁ俺は大丈夫だよ!」と思っている方は危ないです(笑)

ワタシがそうだったから間違いない(笑)





作業を覚えるということが様々な仕事であります。
でもその目的や原因、理論や原理を教えてもらえることは案外と少ない。

そんな中で職業人としてのキャリアを積み上げていくと、出来るけれども見えていない人になる恐れがあります。職場ではそれで問題ありません。そこには事故や過ちをおこさないようなルールや規定があるからです。

例えて言えば、クルマの免許をもっているけれどもハイブリッドの仕組みどころか、2ストローク・4ストロークの意味も、ディーゼルエンジンの原理も知らないということです。それでも運転免許と道交法、道路インフラが発達しているから問題ありません。

これを陶芸の世界に置き換えて考えれば、電動ロクロを回してものを作るのは、自分で(乗用車本体とは言わないまでも)サスペンションを一から開発して製造するようなことなんです。

陶磁器はこれまでの人生で散々使ってきたし買ってきた。なにを今さらという部分もあるでしょうが、それを乗用車に置き換えるとこういう感じだと思うんです。

乗用車の話をつづければ、そもそもサスペンションとはなんぞやとなれば、まずはバネということらしいのですが、なんとなくダンパーと絡めて、いきなりサスペンションを作り出してしまうことが多いとか。本来クルマごとのバネレートが決まらなければ減衰力もはじき出せないわけで、これは順番の話ですね(男子ついてこい!)

さて、体落としのようにロクロの話につなげれば、粘土が変形するという工程とその原理を確認しておかないと、永遠にゼロなロクロ技術になる恐れがあります。そしてそれを商売なんかにしてしまうともう取り返しがつかないかもしれません。

初めての長期アルバイトでもそうですが「仕事わかってきた、今の俺イケてる!」と思っている時が実は一番仕事が中途半端なものです。

先日動画のコメントにも書いていただきましたが、言語化できるということは大切です。
言語化できるということは書けるし話せるということでもありますから、今一度粘土のことを勉強するのも大切だと思います。

そして、自分の経験からも言えることですが、粘土やロクロに触れなくても、上達のために出来ることはたくさんあります。

筆を持つ、落書きする、指のストレッチ、スポーツをする、楽器を弾く、ペン習字などなど。
たとえばアナタはフリーハンドで30センチ程度のきれいなまん丸の円を紙に描けますか?

器用かどうかは脳ミソの問題です。
脳ミソは身体を使ってしか変化しないものだと思います。

ロクロはロクロと考えず、全てがリンクしていると考えるようにしてみましょう。
そう思うだけで家事も仕事も趣味もつながっていくし、全てに面白さを感じ取れるようになります。それは無理というのであれば、せめて電動ロクロと手びねりぐらいは繋げてほしいといつも願っております。






posted by inoueseiji at 06:06 | イノウエセイジの頭の中

2022年02月12日

ロクロは上手くないとダメなのか?

昨日の記事でイノウエをブラックリストのトップに入れてくださった方もいることでしょう。

本日はまったく逆のネタで揺さぶりをかけていきます。

先日ようやく福岡市美術館で会期終了直前のゴッホ展を鑑賞してまいりました。
子供のころから名前も絵も知っている画家ゴッホ。

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今回は「黄色い家」のモノホンも見れて大変感激いたしました。

ゴッホといえば日本人はほとんどの方が教科書などで名前は知っている画家でしょう。
オランダのゴッホとスペインのピカソとドイツのポルシェ(車だろ!)はそこらのおばさんでも知っているヨーロッパの文化の代表格ではないでしょうか。

このゴッホさん、絵描きとしてはマジで下手くそです。
わたしの大学でも絶対に先生に褒められることはありません。

特に遠近感とかデッサンがダメです。これはテクニック的なことですが。
ですから現代の食えない画家に「ゴッホってどう?」とか聞くと微妙な感じになりますので気をつけましょう。

特に種まく人は片足地面についていないし、お前の骨盤どうなっているんだよ〜とツッコミたくなります。
だいたい大人が画面中央に太陽をドカーーンと描いちゃダメです。普通は。

だから言ったろ、ビンセントよ〜。

でもゴッホいいんです。

ご存知のように。



では何故こんなにも人気があって、人の心を揺り動かすのでしょうか。
どうして彼の”ひまわり”に何十億円もの価値があるのでしょうか。

だんだんと解明されてきた彼の人生や死亡状況を知らなくても、どうしてそのキャンバスの上の絵そのもので勝負できているんでしょうか。

乱暴な比較だとは思いますが、このブログであえて言えば、作品の価値とそこで駆使されたテクニックのレベルはまったくイコールではない、ということです。



ということで、ロクロの話。



わたしはこれまでいろいろな場所で、最後のロクロ職人とか、名人とか、有名無名の凄いロクロテクニックをこの目で見てきました。

そして確実にわかったことが一つだけあります。

それは、テクニックがある人が必ずしも素晴らしい作品を作るわけではないということです。

芸大、美大を出た方々、思い出してください。
同期であいつスゲェと言われていた人は生き残っていますか?
専業で食べていますか?(講師や先生業は含めず)
そもそもまだ描いたり作ったりしていますか?

なによりも作り続けること、描き続けることが重要だと思います。

わたしはゴッホ展を見てこれだけの数の作品を自分はくじけずに作り続けることが出来なかったという敗北感もほんのりと感じました。

誰に何を言われようとも好きなことを続けることが大切です。


怒られそうな言い方をすれば、日々コツコツと量産し続けた100枚の一枚に起きた奇跡。
その奇跡のリーチがかかったゴッホの代表作は必然として大傑作になっているだ、と実物を目の前にして思いました。それらの代表作には、学校で習うような遠近感もデッサンも人体の骨格も無視で結構なんです。


ロクロの基礎がデッサンだとすればイメージできるでしょうか。
ロクロがうまいだけでは素晴らしい作品にはなりません。加飾と焼成を経て初めて作品となります。

全行程のわずか10〜20%の工程がロクロであって、それだけで作品が決まるわけではないということだと思います。

もちろんだからといって最初から基礎とテクニックを無視してはいけないですし、自分がゴッホと同類と思うのも大変みっともない発想でしょう。

知識の浅い記事になったようですが、みんさんはどうお考えになるでしょうか。





(とても素晴らしいチャンネル!これ見て行くとさらにグッときます)



日本大好きだったゴッホ。
次は2月23日から名古屋市美術館で見ることができます。




posted by inoueseiji at 08:02 | イノウエセイジの頭の中

2022年02月11日

ロクロが上手い人とは?



ロクロの動画に質問をいただきましたので、動画でお答えしております。

わたしは基本的なことしかできませんが、プロの友人・知人にも「まぁいいんじゃない?」と評価いただきましたので、ガンガン発信していきましょう。

質問やリクエストお待ちしております。




はい、では動画では怒られそうなことを書いてみますよ。



ロクロが上手い人の条件


・独学ではないこと

・仕事としてロクロ成形をした経歴

・ユーチューバー以外


はいはい。
怒らないで〜。



まず独学ではないことは重要です。

どの世界でも独学には危険性があります。覚える側にも教える側にもその危険性があるのです。
これについてはこれまでも記事にした記憶があります。

ロクロであれば、独学の方には無意味な工程や、やってはいけない省略、説明できない理論などが入る人が多いようです。

プロになる多くの方は製陶所、窯元、訓練校、大学や専門校などがスタートとなることが多いと思います。
そこではやりたくもない作業、罵声と怒号、嫌味に意地悪、同期や先輩後輩との張り合い、怪我や睡眠不足がお待ちしております。人生一度はそんな中で揉まれてみるのも悪くはありません。

安心してください。
令和の今はそこまではないでしょう。

ただ、独学でそんなプレッシャーを味わうことは絶対にありません。
いきなり作家デビューというのも同じです。わたしのような失敗をして撃沈ですヨ。



でも、それが悪いということではありません。


独学で良い仕事をしている方もいることはいるでしょう。ただ独学のみやいきなりデビューだと、この世には自分の想像を遥かに超えた次元で仕事している人、そこで修行して独立した人間がいるということを知らないまま大人になってしまうというだけです。自分で自分をプロとか職人とか言って失笑をかわないようにしましょう(笑)。

また独学だと産地を知らないまま活動を始めることがあるかと思います。これもあまり良いこととは思えません。せめてシェフが築地に行く程度には知っておくべきだろうとも思えます。ネットで完結させることも可能なのかもしれませんが、それは窯選びや道具・機材・絵具や溶剤の認知不足につながるようにも個人的には感じています。


教育の場のように思われるけれど、習う人にいくらやる気がいくらあっても伸びようがないのは陶芸教室です。そもそも上記の条件を満たしている講師はほぼ皆無な世界です。またプロを育てるという目的を持つ場所でもありません。生徒がプロになると損するシステムしかありませんでしょ?

もしプロの作家になりたいと思っている方がいらっしゃったら陶芸教室にいくのはデメリットしかありません。わたしのお客様にも教室の方がいますが、これは事実ですから書いておきます。


また仕事としてロクロを回したことがあるかないかは非常に重要です。仕事というのは賃金を稼いだということです。ロクロを見るのも嫌になるまで、です。

例えば、うちの嫁がいくら料理上手でもプロの料理人にかなわないのは明々白々です。それは生活と仕事とのレベルの差です。

その仕事で賃金をもらう、きつくてもヤらなければならない、うんざりするほどの量産、その人がこれらを通り抜けているのかどうかはそのロクロ作業を見ればわかります。

ワタシにもほんの短期間ですが雨でも路面凍結でもカブで製陶所に通勤して指の感覚がおかしくなるまで何万回も印花を押したり、動力ロクロに延々と粘土を打ち込んでいた経験はあります。もう二度とイヤで〜す。もっとも窯作りの方はもっとエグい経験がいっぱいありますけど(笑)。

でもそれらがささやかな経験として自分を支えているのも事実です。
そして自分が経験していないと人の作品や仕事を評価できなくなってしまいます。

ふと周りを見回しても、正しく成功している同期、知人は、ガッツリと量産の現場や窯元で働いた経歴をもっています。それはやっぱり必要なことだと思います。スティーブ・ジョブズだって雇われの時代があったそうです。まぁ、あなたがホリエモンになりたいのなら止めませんが東大には行った方がいいでしょうね。


ユーチューバーではない、というのは特定の誰かという意味ではありません(ワタシも含め)。本当にロクロが上手い人は、不特定多数へ発信するモチベーションにならない、だから発信なんてしていない、ということです。

わたしも仕事でレベルの高い場所にいくほど「ロクロの動画なんてあるんですか?」と聞かれますし「イノウエさんもされているんですか?」とびっくりされています。これだけ動画を出していても観られてもいないんです。

正しく上達した方々は「ロクロのコツ」なんてキーワードでネットを検索する必要もないですし、オススメのサムネイルをクリックすることもありません。そして前述のように発信する理由も持っていないのです。

逆側の極論をいえば、自分の仕事、自分の作品以外には興味を持っていない方々とも言えます。ゆるぎのない技術や目標がある上達しきった人は他人や外界を見る必要はないのです。

これはいつも言っていることですが、仕事と人生が適正に進んでいる方は"YouTuber"にはなりません。ワタシだってそうですから。

もちろん営業活動の一環での発信はあるでしょうし、わたしの動画も焼成と窯へ興味を持たせ、窯の発注へつなげたいというのが目的です。

その目的が不明瞭なままの人も多いでしょうし、そんなものがなくても動画を編集して発信するのは面白い作業です。それで「いいね」とか広告収入があればそれは立派なモチベーションになりますからね。




さて。


電動ロクロにおける成形の技術、もしアナタが本当に上達したいなら、やりたくもないこと、ツマラナイ基礎をありえない量と時間で行うだけです(いま想像された数字の10倍ぐらいやってください)




ロクロ成形技術の上達は、ピアノが上手くなることやクルマの運転免許を取ることと同じです。
それでもピアニストやプロドライバーになれるということではありません。





コツ?




近道?






残念ながらありません。

そう思えるものがあったらそれは罠です





だからまずは一緒に基礎を固めていきましょう!


今後の動画にご期待ください。






posted by inoueseiji at 08:51 | イノウエセイジの頭の中