超硬カンナを製造し、そのメンテナンスとして研ぎ直しをされている山口さん。
残念ながらすでに引退宣言をされているそうですが、肥前地区、波佐見・有田だけではなく全国各地に、山口さんを頼りにしている製陶所や個人作家さんたちがたくさんいて、彼の引退後のカンナや道具のメンテナンスをどうすればいいんだろうかと将来に一抹の不安を持っているようです。
そんな顧客のひとりでもあるお客様から、ぜひ井上さんを山口工具店に連れていきたいとお誘いいただき、「秋の有田陶磁器祭り」最終日にお邪魔してきました。
ある程度本格的に陶芸を習われた方や、製造業や機械工作に詳しい方は、これがそこそこ大きい両頭グラインダーだということがわかるかと思います。そして2台の両頭グラインダーは超硬カンナのあの鋭い刃をたてるために、様々な工夫をこらしてあるそうです。
普通の電動工具や両頭グラインダーには振動やわずかなブレがあります。そんな状態では超硬カンナのような薄く鋭い刃を研ぎ直すことはできません。そのためにグラインダーの固定やその砥石の回転部分には振れ取りのための調整を行ってあります。実際に近くで拝見していましたが、まったく砥石にブレはありませんでした。
そしてそもそもの砥石がそれぞれ角度を指定した特注のダイヤモンド砥石。一つが十数万円はするものだそうです。それが4つ。
やきものの仕事では棚板の掃除などでダイヤモンドカッターをサンダーにつけている方も多いかと思いますが、あのサイズの刃とは比べ物にならない大きさ素材、そして角度も指定して特注しているのですから当然の価格でしょう。
また砥石の部分にかかるように流れ出ているのは水ではなく、水溶性の特殊な切削油を使用しています。それを循環させながら砥石とカンナにかけながら研いでいくのです。普通こうしたことを山口さんのような技術者が話してくれることはありませんが、たまたまオイルのことを調べていた井上の質問から説明していただくことが出来ました。
また山口さんは20年以上牛ヘラを作っていらっしゃいます。その際にどんな木材をどのように乾燥させて加工するのかをずっと試行錯誤されてきたという貴重なお話も聞くことができました。
また山口さんは20年以上牛ヘラを作っていらっしゃいます。その際にどんな木材をどのように乾燥させて加工するのかをずっと試行錯誤されてきたという貴重なお話も聞くことができました。

そしてわたしとしては当然の感覚だと思うのですが、山口さんは牛ヘラを作るに当たり、ロクロを学ぶようになったそうです。どうしてそんなことをするのか、ものづくりの人間には明確な理由があります。自分が作るもののレベルを上げるためです。アマチュアの人にわたしが道具の自作をあまり勧めないのは、自分の技術レベルの道具しか作れないからです。自作する前にプロレベルの道具を使うべきだと思うからです。
山口工具店さんについては以下リンク参照。
https://hasamilife.com/blogs/people/yamaguchi-kouguten
ちょっと脱線しますが、わたしの幼友達はトラックメーカーに営業マンとして就職が決まった際に、アルバイトで貯めたお金で春休みに大型免許を取りにいきました。同期入社で大型免許を取った営業マンは彼ひとり。彼はいまでもその会社にいて、部長職になっています。自分の販売するトラックはすべて自分が運転できるわけです。
瀬戸の梶田絵具店さんや山内陶料さんも同様です。製造現場を把握し、自分たちの販売する原料や絵具がどう使われているか常にアンテナを張っている。時には自分で焼成して確認もする。自分が作るもの、自分が販売するもの、その使用現場や製造現場を知っておく。こういう当たり前の感覚を持つ人が増えてほしい。つくづく自分は口だけで生きているなぁと反省した次第です。
絵具も筆も道具も土も、いまはもう手に入らないがドンドン増えています。そして山口工具店さんのような工場や職人さんも引退していくばかり。そもそも山口さんが牛ヘラを作るようになったのは金属の仕事が減ったからなんだと思います。
それにしても本当に勉強になりました。山口工具店を出て泉山磁石場、チャイナオンザパーク、忠次舘と見て回りました。忠次舘で1900年のパリ万博に出品された大花瓶を見てふと思いました。

俺たちって退化してないか?