2024年04月24日

ガス窯の扉周りの話


メームスの自転車は3年盗難補償、イノウエです。
はい、ちょっとご無沙汰しておりましたが。その間のことはまたいつか。

今回は急遽ガス窯の扉周りの話をしておきたいと思います。

これは特定のどこかということではなく、これまでの質問や現場確認での蓄積によるネタ。それが昨日友人との会話で溢れちゃったと言う感じです。
そうなんです、意外と扉周りに難があるところが多いみたいです。

窯は耐火断熱レンガで組まれているわけですが、戸当り部分での密閉性を確保するためにセラミックウールを使用してパッキンにしています。この断熱材は柔らかい綿状のものですから、指でぐいっと押せば跡が残るような素材なんです。そしていくら熟練したレンガ師が築いたとしても、扉と本体のレンガの面がピッチリ合うなんてことはありません。そのために12ミリ程度のセラミックウールでパッキンとしているわけですね。

ということは。

正しい扉の閉め方があります。

厳密には正しいハンドルの締め付け方法があるってことです。


以前関西のある企業の相談で伺った工場のガス窯は、ハンドルに棒を突っ込んで「いのっちぎり」に締めていました。そしてわたしが過去動画で指摘したような本体側のレンガ壁の変形が全てのガス窯で見られました。

まぁ動画を見つけてもらって相談をいただき、その後は正しく運用されているようですからいいのですが、何十年もなにやってんだという話です。

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(ただのボランティア活動だったな)

また、過去の話ですが、窯の焚き方自体が間違っていた上に、扉のパッキンの補修もせずに、アーチからガンガン炎が出ていたなんて窯の補修もしたことがあります。お亡くなりになったもとの持ち主の作家さんのバブリーな時代は、そんな燃費の悪い焼成でも立派にゴハンが食べられたのかもしれませんが、小さめの0.3㎥なのに一晩にガスボンベを5本使うなんて、令和の今では無理な話です。

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(すっかり隙間が広くなって)

配管工事をしたガス屋さんの父親である先代の方が、夜中にボンベもって窯焚きに駆けつけた、なんて美談のように言われてましたが、わたしが適正な焼成方法を指導したことで「本焼きで一本も使わないんですね」とホントの消費量が分かると相当ガッカリしておりました。配管工事費サービスしてくれてたのね、ごめんね。

窯本体の前面の扉アーチから炎がガンガン出ているなんてビジュアル的にはカッコいいのかもしれないけれど、単に補修してないだけじゃんか、ということです。そして、この扉周囲が購入時のまま放置されているガス窯は意外と多いようなんです。

レンガの壁に謎の何かを塗ったりはしているのに、扉のパッキンが大昔のガチな「石綿」みたいなままだったり、ピンで留めているとか、ウールの一部が欠損しているとか、扉ハンドルで締め上げてペラペラの3ミリぐらいになっているとか。

窯本体側の扉の上が真っ黒に煤けているとか、窯場の天井が黒くなっているとか。
いやいや、ガス窯ですぜ。危な〜い!


■風が吹いたら桶屋が儲かる的な流れを考察してみよう!

  • 扉の閉め方が間違ってる
  • パッキンが傷んでくる
  • 炉の密閉が悪くなる
  • 還元ムラ、温度ムラができる
  • 火力で炉圧を上げてどうにかする
  • アーチから炎
  • まだ足りない
  • ガス圧さらに上げる
  • そもそもダンパーとドラフト操作の原理を理解してない
  • まぁだだよ
  • ガス代がすごいことになる
  • ようやく作品がとれるようになる
  • やっぱコレぐらい勢いいるぜ
  • ガス屋が儲かる笑


それから旋垂扉の開け方も知らない人が実は結構いるというのも先日友人の作家さんからお聞きしました。まずそこを教えないとと思うけど、知らないままの人もかなりいるようです。そういう窯の扉は、扉の開く側の端のレンガが欠けているので一発でわかります。

個人でも窯元さんでも、コスト意識は大切だと思います。
ガス代も値上がりしています。断熱材も上がりました。


こんな時代だからこそメンテナンスをしっかりしましょうよ。

パッキンの張り替えはそこまで費用はかかりません。そして適正な扉ハンドルの締め方も今一度確認してください。

炉圧を意識した窯焚きで良い作品を燃費良く焼成していただきたい。
わたしができるのはこんな発信ぐらいですが。


posted by inoueseiji at 07:21 | イノウエセイジの頭の中

2024年04月13日

ディーラーで考えたこと

”わが国には、窯の原理もはたらきも知らないやきもの通や目ききが多すぎるように見受けます。”
加藤唐九郎 やきもの随筆 窯(二)窯の構造とその作用 より


さすがわれらのアントニオ猪木、キツイっすねぇ。
まぁでも令和のいまでもこれは真実でしょう。


でも、やきもの通や目ききを自称される方はそれで良いじゃないですか。
好きなようにロマンを語ってください。絶対そのほうが楽しいですよ。


しかし。


やきものを仕事にする方がそれでは心もとない気がします。窯なんかいらねぇ、オレは野焼きで十分だぜ!と強がっても、野焼き作家なんて食ってはいけなさそうですし、絶対に頭と手と窯はこの仕事で食べていくのに必要です。窯がない陶芸家は存在しないし、いるんならそれこそ自称でしょう。

そしてその窯を正しく選択できないというのはかなりヤバいことなんです。
今は昭和の時代よりもいろいろな機材も進歩したし、断熱材の性能や電気炉の制御も大きく発達しました。だからちょっとあやふやな選択をしてもどうにかなる部分は昔よりも多いかもしれない。

「窯を選ぶ」なんて単語も動詞もむかしは存在しなかったのかもしれない。
誰にでも持てるものではなかった時代も長くあっただろうと考えます。ということは、われわれは大変に恵まれているということです。二十代の半ばを過ぎてからこの世界に入ったわたしでも、ある程度の経験をしたり知識や技術を身につけることができる時代だったわけだし、誰から頼まれたわけでもなく、自分の欲求に従って陶の道にすすんだ人がこれだけたくさんいるのですからね。なかにはお前は跡取りだと言われた人もいるんでしょうが、多くの人は自分でなりたくて陶芸家になったんでしょう。発信する方法も、販売するルートもじつに多彩になっている気がします。

そんな恵まれた時代は今なお継続中ですが、やっぱり窯に関しての情報は全然足りないし、教育されているようにも思えない。すでに生業にしている人はそのひとの個人的な経験がどうしてもその発信や教育の軸になるため、人によっては大きな偏りがあることが往々にしてあるものだし、じゃあお前はどうなんだといえば、どっかの生ぬるい准教授とそうレベルは変わらないと自覚してもいます。


というわけで。


話はとんで先日わたしのクルマが車検だったんですが。
(翔んだなぁ)

その際にディーラーでコーヒーとチロリアンをいただきながらわたしの担当者の係長さんといろいろと営業関連の仕事のはなしをしていました。

クルマ選びと窯選びを頭の中で比較しながら、めちゃくちゃ通じるものがあるなぁと彼のはなしを聞いていましたが、モノの選び方の前に、やっぱりどこで購入するのかは非常に重要だということなんだと改めて思いました。

クルマの仕組みなんて誰も興味ないでしょうから、値段とデザインで選ぶわけですが、ディーラーは価格も敷居も高いと思う人も多いので、中古車を購入したりすることも多いですよね。ネットでの個人売買やお付き合いのある修理工場などで購入もあります。世代にもよるんでしょうが、自分の周りは、ちょっとオレはクルマに詳しいぜってヤツほどディーラーで購入しない、というヤンキースパイラルに嵌ってるもんでした。まぁ二輪が主軸だったわたしも実際にこれまでのクルマはほぼ中古でしたね。もらったりとか。

中古であっても購入した修理工場なんかですべてが済めば問題ないと思いますが、なかなかそういうわけにもいかないことも出てきます。そうなるとディーラーに「ディーラー以外で購入した車両」を持ち込む羽目になるんですが。係長によると、いまのご時世たとえ同じトヨタであろうとも点検するだけでも「他所のお客」は有料になる、とのことでした。場合によっては断ることもあるそうです。もちろんディーラーのお客様は無料です。

また緊急時の対応も、ディーラーで購入したのか、さらにサービスパックには入っているのか、それをメカニック側も先に確認するそうです。そして「ああ、あの自営業のお客様か」となれば無理くりスケジュールを組んでお客様の仕事の都合に合わせようとしてくれるそうですが、”ビッグな発動機”とかの中古車販売店で購入のお客なら「来週の何曜日の何時しか空いてないけど?」という実にドライな対応になるそうです。ていうか、あまり来てほしくないというのが本音だとか。


まぁ当然だよ。


自営業になって、自分が売る立場になったわたしも、そのへんはすごく身につまされてきたので、モノを購入するときなど、見積を値切ったことなんて一回もありません。そうするとクルマの場合なら相手が勝手に割り引いてくれたし、それでなくても十分なサービスをしてくれる。そして係長の心の中の「いいお客様リスト」に入れてもらえるんですよ。

逆にディーラーの整備見積、もっといえばタイヤとかね、それを持ってカー用品店で同じブランドのタイヤを安く交換したとしても、その差額以上にメカニックや営業マンの心象を害しているということです。

ディーラーで買わないというのであれば、すべてを自分でどうにかしていくしかないわけですが、それを家のママチャリレベルで整備出来る人はどれだけいるんでしょうか。ほとんどいないでしょう。自転車にしろクルマにしろ、自分でパンク修理できる人がもう貴重ですもんね。そしてクルマなら細々したリコール情報はディーラーにしか来ませんから知らぬ間にリスクを背負っている可能性もあるかもしれない。修理工場だって認定工場にするには設備とか機材、免許なんかもややこしくなるのに、クルマが好き程度の素人がどうなるもんでもないでしょう。

わたしは前のクルマを知人にオークションで引っ張ってもらったんです。その後もオイル交換とか整備とか知人だからお気楽にお願いできてよかったけれど、そいつが挨拶もなくトンでからは車検もなにもめちゃくちゃ面倒くさくなってしまったし、一回はオルタネーターのベルトが切れて立ち往生したこともあったんです。だから次は絶対ディーラーで買おうと決めていた。だってディーラーに行くたびに「ウチで購入されてますか?」と聞かれてウンザリしてましたから。

いまのクルマを購入するはなしもどこかに書いた記憶があるけれども、先述のように一切値切らなかったら勝手に十数万円引いてくれましたよん。

あちこち県外にもいくけれどもディーラーで情報は共有されているので、どこに飛び込んでもこれまでの整備記録は確認されて、ちゃんとお客様扱いをされるのでありますよ。これはめちゃくちゃ心強い。トヨタの行くところすべて行動範囲ということですね。

まぁ知っている人は知っている、当たり前の話です。
(ホントちゃんとした窯元さんは中古ある?とか言わないよなぁ)

何がいいたいのかというと、機材自体の選択も大変重要ですが、それをどこで購入するのかはもっともっと重要です。

お金を出しても買えないものというのは、実は結構われわれの生活の中にもあるということでしょうか。確かにディーラーは高いというイメージがあるし、実際に支払う絶対値は大きいのかもしれない。でも倍にはなりません。それよりも、そこでお客様として記録に残ることがどれだけ大きなことかは逆の立場になれば理解できます。


窯の話に例えるまでもありませんし、結局は高い安いには理由があるということです。

そして自分やかわいい子供の命を乗せる機材(クルマ)の選択がそれでいいのかを考えない人が一定数いるのと同じように、自分の作品の良否を決定する工程の機材(窯)の選択がそれでいいのかを考えない人が一定数以上いるのは、多分七割はコチラ側の業界に責任があると私個人は思っています。

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posted by inoueseiji at 06:59 | イノウエセイジの頭の中

2024年04月07日

中古のガス窯がありますよ

と、紹介してくれるのなら、以下のことを伝えておいて欲しいなと思います。

  • メーカーと製造年
  • 金額とその範疇
  • 温度計などの付属品の有無
  • わかるならこれまでの本焼き回数
  • 窯本体の外寸
  • 炉内の寸法
  • 棚板サイズと枚数
  • バーナー本数とそのサイズか写真
  • ネームプレートの写真
  • エントツの直径と長さ
  • エントツはどちらが取り外すのか
  • 現在のエントツの施工状況がわかる写真
  • ダンパーとドラフトの素材と状態
  • 設置場所からの搬出経路や寸法
  • 使用者のおおまかな情報・プロかアマかなど
  • 窯の各面の写真をできるだけたくさん
  • エントツと屋根の写真
  • バーナーやダンパー、ドラフトの写真
  • アンカーのあるなしなど窯の固定状況がわかる写真
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(エントツの写真がのっている中古情報は皆無)

寝起きでパッと考えてもこれぐらいは絶対に確認しておきたいと思います。灯油窯でも同様ですし、電気炉でも似たようなものです。

大切なことは、中古陶芸窯の購入を考えている方ならば、これらの情報をもとに、必ず購入を決定する前に、プロや業者に相談することを強くオススメします。

これは事実ですから書いておきますが、いくら10年修行しても窯の状態を判断する訓練はされてこなかったはずです。わたしはクルマの免許を取って30年以上になりますが、中古車の査定なんて出来ないデス。

これは出会いだなとか、タイミングとか、雰囲気で飛びついてしまうと、先々後悔することもあり得る、ということです。そもそも何で中古になったのかを一回冷静に考えてみましょう。もしかしたら使い物にならなかったのかもしれないし、やたらと扱いにくい窯だったのかもしれません。そしてその価格が本当に適正なのかもプロの意見をきくのはアリだと思います。そのために数千円を払いたくないのであれば、オジサンはとめませんが応援はします。ガンバ!

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搬出や搬入設置工事ですが、もし陶芸窯などとは無関係の重量屋さんなどに仕事をお願いすると、追加請求がどんどん増えるなんてこともあり得ます。

実際にそういうことを過去にわたしも経験しています。こちらの10万円程度の見積もりを蹴った独立前の方が、違う業者から30万円請求されて泣いてました。窯とほぼ同額ってね。

別にその業者は何も悪くありません。見積もり時は当然そんな金額ではなかったんでしょうけど、お客側からはフワッとした情報で、1トンぐらいのものを移動すると聞いていただけだったんでしょう。

ところが設置場所から搬出するのは大変だし、段差はあるし、エントツ外すなんて聞いてないし、どんどん追加項目が増えていったということです。想定外ですから当然です。聞いてないんだもん。悪徳でもなんでもない、その人が不勉強なだけだったのです。

わたしは相談にのります。
ホームページをご確認ください。


posted by inoueseiji at 08:24 | イノウエセイジの頭の中

2024年04月03日

ダメな窯なんてない。ダメな選択があるだけだ。


これまでは自分の基準で物事を判断してきて、こんな窯はダメだとか、なんであんなのを、とか、いい加減な業者は許せんとか、一人で息巻いてきましたが。

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様々な方とお話したり、重要な気付きをくれる方とのディスカッションから、自分がダメだと思っていた窯は別にダメではない、ダメな選択があるだけだと思うようになりました。そしていい加減な設置や無資格工事をする人間は、悪気があるわけでもなく、単に情報不足、経験不足なだけだったということでしょう。

これまでわたしが体験した様々な事例や、動画やブログで発信してきた内容、それらを見返すと、自分はそれに気がついてはいたみたいだけれども強く認識していたわけでもなかったようです。

大昔、自転車の選択をするように我々は窯を選ぶことができない、というような内容の発信をYOUTUBEでしてました。どの程度伝わったかわかりませんが、その時はママチャリとウン百万円のロードバイクを比較して、買い物するだけならママチャリで充分ですし、レースで勝つならロードバイクでしょう?という例え話をしたのです。いまからレースに出るのにアナタはママチャリの中古を探してませんか?というようなエグいことを言っていました。

窯も同じで、ダメな窯なんてありません。製造するメーカーの設計思想やクセみたいなものが違うだけで、ようは選択の問題です。モノづくりをする際に、いまからダメなものを作ろうなんて思う人やメーカーは存在しません。ダメな器作ってやるぜ!とロクロを回す人がいないのと同じです。ただ、前述の通り、その窯の設計思想やメーカーのクセ、それぞれの得意分野が違うというだけです。

いつも引き合いに出して申し訳ないのですが、シンポさんの100Vの電気炉と、我がふくおか陶芸窯の共栄電気炉製作所製のKCシリーズの100Vの電気炉では何が違うのでしょう。

シンポさんの100V電気炉の利点は、炉内が四角く広い、横扉式、焼成時ロックがかかる安全性、ヒーター線の補修が自分で出来る、取り扱い店が多い、メーカーの知名度が高い、などでしょう。

ただ決してプロ向けではない。KCシリーズとは違い、これ1台で作家活動というのは厳しいでしょう。ちょっと窯買ってみようかなという方向けのモデルかと思います。制御部もイマイチだと私個人は触ってみて感じました。とはいえ、この電気炉がダメということではありません。ただアナタ向きかどうかは別問題ということです。

シンポは今日本電産グループになっていますが、もともとはデミング賞を取ったぐらい優秀な工場を持つ企業でした。陶芸家のほとんどはシンポのロクロを所有しているでしょうし、陶芸教室に通った経験のある方は初めての電動ロクロはほぼ間違いなくシンポだったはずです。

ただ、ロクロと窯炉は違う。

私だって町内にシンポの代理店あり利用していれば、その付き合いで購入したかもしれない。しかし。残念ながら私が100Vの電気炉に求める条件はシンポの窯には無いということです。ではその判断をみなさんが出来るのか。

発信予定の動画シリーズ「窯の選び方」に関してはそこを可能な限り伝えられたらと思います。

私は中古がダメとか特定のメーカーがダメと言っているわけではありません。
ただ選択の問題だと最近は強く思います。

そしてその選択に必要なのは情報ということでしょう。
posted by inoueseiji at 05:56 | イノウエセイジの頭の中

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