2008年05月14日

素焼きが怖い


独立してから、なぜだか素焼きをするのがとても怖いです。

土がやきものに変化するのは、結晶水がぬけた段階からです。それはだいたい400℃前後のようで、その温度をこえた粘土はもう水にとけることはありません。

やわらかい粘土が固くなるときに失われる水分のことを、結晶水に対して自由水と陶芸の世界ではいいます。結晶水とは粘土が完全に乾燥しても、残っている水のことで、焼かなければとれません。また自由水も100℃を越えても素地にのこっていることがあり、200℃ぐらいで窯の中で乾燥不十分な素地がハゼたりします。これは素地表面が200℃になったころ、ようやく芯の部分の温度が100℃をこえるからのようです。

どうして素焼きがこわくなったのか考えてみると、もうそこに生活がかかっているわけですから、絶対に失敗できない、という気持ちがあるのだと思います。素焼きで失敗したら、なんだか情けないような感じもします。

では、本焼が怖くないのか、というとやはり怖いわけですが、本焼はもう最終段階ですから、覚悟がきまっているというか、ここで失敗してもしかたないな、みたいな気持ちになるのです。もう十分戦った、みたいな心持ちでしょうか。開き直っているのでしょう。

とくに、大物や素地の厚いもの、また複雑な形状のものや長皿など、経験上素焼きでダメになることがたまにあります。

そこで、です。

このごろ知ったのですが、先程も書いたように薄い素地でも、表面と芯の部分ではそうとう温度の開きがあるようなのです。これは、素地の多孔質によるものですね。特に素地があつかったり、大物である場合、いくらゆっくり昇温しても、このギャップを埋めるのは難しいようです。そのためにハゼたり、ヒビが入ってしまうこともあります。

ではどうすればいいのか。

最近の素焼きは大物や厚いものがあるため、こんな方法をとっています。まず、一度ゆっくり200℃ぐらいまであげて、火を止めます。それから数時間放置します。この間に素地全体が同じ温度に落ち着くはず、と考えています。それから、もう一度焚き始めるのです。場合によっては、前日におこなって、次の日から焚くことにしています。いまのところ、これで厚いものでも、失敗していません。ガス代にも、そこまで大きな影響はでません。
なんだか怖いな、というときにおすすめです。

これが正しいと言っているわけではありませんが、なにかの参考になればと思いました。
こんなことをふと思いついたのも、窯屋時代に、お客さんの作家さんが似たようなことを言っていたのを思い出したからでした。




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posted by inoueseiji at 03:48 | Comment(0) | TrackBack(0) | 窯と焼成に関すること
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