2008年06月17日

訓練校をふりかえって


わたしは瀬戸の窯業高等技術専門校を修了しました。
陶芸の世界では「訓練校」と呼ばれている学校です。わたしと妻が在籍してたころは、製造科1、製造科2、デザイン科、専攻科の四つの科があり、たしか90名弱が在籍していたと思います。現在はもう専攻科がなくなって、製造科の年齢によるクラス分けもないのかな?

訓練校修了後、わたしは築炉メーカーに就職して、最初の3年ほどは全く粘土に触ることはありませんでした。それでもその後、作陶を開始して、時間はかかりましたが今は陶芸家をしています。もちろん電動ロクロも使っていますから、訓練校の実技を教えるカリキュラムというのは、たいしたものです。

証拠もあります。わたしが週に一度教えている生涯学習センターでは、訓練校のやり方でロクロを教えています。受講生は、ほとんど還暦をすぎていますが、この2年でロクロのうまくなったのならないのって、見学者としてスパイにきた他所の教室講師が唖然として、すごすごと引き上げていったほどです。

ロクロの時間、毎日毎日何十キロとひたすら同じ課題でロクロを挽く。あの訓練校のありがたさは卒業しないとわからないものです。

わたしは大学で彫刻を専攻していましたから、いろんな機械を手軽に実習室で使うことができました。ところが卒業するとそうしたものを全て自分でそろえなければならないのです。彫刻家にしろ、陶芸家にしろ、そうした設備をそろえるのも運や才能のうちです。とにかく、わたしは一度そういう経験があったので、まだわりと訓練校の実習には真面目に取り組みました。お陰で巧い下手はぬきにして、自転車や水泳のようにロクロが身についたと思っています。

それよりもなによりも、こんなこと自分には何の関係もないよな、と思っていた講義や実習が、その後大いに仕事や作陶に影響しました。このことは本当に多くの先輩もおっしゃっていますし、わたし自身も調べに調べて、もうお手上げ、という答えが訓練校時代のノートにあったことがあります。動力ロクロのバイトで糊口をしのいだこともあります。

いずれにせよ、知らないことは何の自慢にもなりません。特に陶芸の世界の人は(自分のことは少し棚に上げさせていただきます)世間が狭い人が多いので、なんでも知っておいたほうがいいと思います。陶芸だけでも、窯、土、釉薬、技法、食器、茶器、それに関わる簡単な化学、工作、食材や料理、歴史、建築などきりがありません。それだけではなく、先生、業者などとの人間関係(わたしはお酒でやらかしてますが)などもとても大事です。知らないことを教えてもらえるプロと、きちんと付き合える礼儀も大事です(○ワ、○○ラ○、君たちだ)。

わたし自身、最初にまとまった金額の注文があったのは趣味の世界のつながりからでしたし、個展などで、相手の世界の話題についていけたので買ってもらったようなことも多々ありました。鉄道オタクの営業のかたと、話せるネタがあったお陰で新車の値段が30万下がったこともあります。作品上の師匠といえる方と関係が深まったのも、飛行機好きな師匠よりも飛行機に詳しかったからでした。

なんだか、食えない陶芸家が偉そうに書いてしまいましたが、ようは楽しく長く、プロ意識をもって陶芸に向き合っていきましょう、ということです。そうすれば自然と何でも身についていくと思いますし、出会うべき人に出会っていくと思います。

訓練校の1年は楽しく、貴重で、あっという間です。

在校生のみなさん、がんばってください。
追いつかれないようにわたしもがんばります。

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posted by inoueseiji at 18:30 | Comment(4) | TrackBack(0) | 陶芸の教育に関すること
この記事へのコメント
失礼いたします。私は愛知県に住む37歳の若竹と申します。いつも井上先生のYouTubeを拝見し、勉強させていただいています。専門的な知識やアドバイスを笑いも交えて歯切れよく語って頂き、見ていて楽しい上、やる気が湧いてきます。不躾かと思いますが、先生の訓練校の記事について質問をさせていただけますでしょうか。質問というより悩み相談になってしまいます。私は2ヶ月前に陶芸を始めました。瀬戸の訓練校に行くつもりで始めました。学校見学に行って話を聞いたところ、焼成の数は一度と伺いました(一度、というのは聞き違いかもしれませんが出来上がりを見ながらテストを繰り返す作業は出来ないと受け取りました)。そこで歩む道について迷っています。私は年齢もここまで来ており道のりは簡単でないことはわかっておりますが、いずれは自分の作ったものを販売するまでに至りたいと思い、取り組んでいます。学校に行くまでの間に、と教室に通っています。教室は週に5日解放され、1日に6時間程度作業ができます(月謝は固定されておりどれだけでも通うことができます)。先生は30年の経験のある方です。土の種類は10程度、釉薬の種類は80程度、焼成は酸化のみで、月に2度ほど本焼きがあります(先生の動画を拝見したので、100vの窯を購入して自宅でも作業することも検討しております)。自由度の高さとテストを繰り返せれる環境があるため、訓練校に行くよりも目標に対して近道になるのではないか、と思い、過ごしておりました。ですが井上先生のこの記事を読み、再考しなければならない、とよく理解できました。突然のメッセージからで厚かましいですが、何かアドバイスをいただけませんでしょうか。もし他の記事や動画でお話ししていただいていることでしたら、重ねてのことになり申し訳ございません。他に相談できる人が一人もいないので伺う次第です。
宜しくお願い申し上げます。
Posted by 若竹純司 at 2021年01月20日 20:24
追記を失礼します。
教室へは土や釉薬を自分で用意することも許されています。また、私はもし教室に通いつづけるならば訓練校へ通うのと同じだけの時間を勉強に費やせられる身の上です。以上になります。宜しくお願いいたします。
Posted by 若竹純司 at 2021年01月20日 20:41


>若竹純司さん



コメントありがとうございました。

こんな昔の記事にも反応があり嬉しい限りです。
訓練校は今は名称もかわり、システムも変わっているようですね。わたしとしては九州から愛知県の瀬戸市に移り住んだことが大きな意味がありました。10年いて、本当に人脈が花開いたのは9年目ぐらいだったと思います。あくまでわたしはですけれど。

愛知県にお住まいであれば瀬戸は気軽に行ける場所だろうと思います。陶芸をはじめたばかりということですが、40歳で訓練校に入校して今でもプロとして活動している同期の方が2名います。

大切なことは決して焦らないこと、時間がかかることを受け入れてコツコツと焼成することだと思います。わたしも訓練校では焼成の授業はたったの一回で、説明と窯詰めを少ししただけでした。

このような教育機関に関わらずプロになった方もいますよね。また訓練校や美大に行ったからといって、全員がまともな知識や技術を身につけるわけでもありません。ようするに覚悟と取り組み方だろうと考えています。

もしわたしの動画が少しでも役に立ったのならば、全て観てみるとか、そこで紹介されたことを実際に試してみるとか、そういう馬鹿正直な取り組みこそが近道なのかもしれません。もちろんそれにも時間がかかりますよね。

いくつかの動画で話していますが何か自分のスタイルを固定することも良いと思います。それは写しでもいいでしょう。あまりにも間口が広い世界ですから。わたしは織部、と決めて取り組んでから他のことへの理解も深まったように考えています。土や釉薬を絞ることも有効です。

きっと教室はいつでもいくらでも来ていいというプランで通われているのでしょうが、焼成条件の変更は難しいかもしれませんね。瀬戸であれば築炉メーカーにまだ貸し窯があるかと思いますので、経験を積んで一人でそれにチャレンジするのもいいですね。

迷われたら他の世界に置き換えて考え直すのもヒントになると思います。カメラがうまくなるにはとか、歌がうまくなるには、とか。わたしは今でも毎年なにがしか新しいことに挑戦するようにしています。それが伝え方や覚え方のヒントにつながっているからです。

そして専門書などを読んでみることも大変重要なことです。土に触れなくても上達することはできるものです。

コメントどうもありがとうございました。どうか今後ともよろしくお願いいたします。

Posted by inoueseiji at 2021年01月20日 20:56
すぐにご返事いただき恐縮です。ありがとうございます。

大変参考なりました。アドバイス下さったように、焦らないことと覚悟をしっかり胸に確かめながら進路を取りたいと思います。

上達のヒントも下さりありがとうございました。本には載っていないアドバイスをしていただき有難いです。

ちょうど先生がご紹介下さった『上達の法則』を読み始めました。また、先生の動画を全ては見れてはいないので、見進め実践していきたいと思います。

これからも勉強させていただきます。ありがとうございました。失礼します。
Posted by 若竹純司 at 2021年01月20日 22:48
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