陶芸をある程度やった人で、釉薬も自分でつくってみようと思い立つ人はどれだけいるのでしょうか。
わたしは訓練校修了して、築炉メーカーで働いていたときに、自分でも作陶をしはじめました。しかし、小さな子供もいて、仕事のあとにロクロを回したり、土をこねたり、という生活は長くは続きませんでした。そこで、つくる方はいったんやめて、先に釉薬を勉強しようと思いました。
作陶は1年間訓練校にいっていたから、一応、基本をおさえた、ということにして、在校中には全く本気で勉強しなかった釉薬をやってみることにしたのです。今思えば、将来的な展望などではなくて、ただ周りの同期たちがどんどん作家として活動していったことへの焦りからだったような気がします。
・・・訓練校の名誉のためにいっておきますが、訓練校では三角座標も、ゼーゲル式も、釉薬の調合もすべて授業と実習があります。ただわたしは在校中、そんな化学式のようなものは必要ない、ものづくりとはそういうことではない、などと傲慢不遜な三流美大生の考えをまだもっていました。また、限られた時間の中での講義ではどうしても理解不足になってしまい、化学式などにアレルギーのある生徒はほとんどわたしと同じような考えかたをしていました。
卒業してから、もっと勉強すればよかった、と思うのは凡人の哀しさですが、今度は、おそらく仕事に関わることですから真剣に取り組みました。また釉薬の勉強では、最初は本を読むことが多く、疲れて帰っても、寝るときでも、昼休みでも勉強することができました。これはとても精神的によかったと思います。とにかくいろんな本を読みました。
次は実践です。まず、仕事上でお付き合いのあった、陶磁器絵具店の方に相談しました。すると、まずは長石と合成土灰でやりなさい、ということを言われました。つまり2成分の釉薬ですね。(3成分だと三角座標を使います)そこで福島長石と合成土灰を買って帰りました。
当時、100Vの電気炉は持っていましたから、素焼きの破片に長石:土灰で1:9〜9:1のテストピースをつくって焼きました。乳鉢で20gづつぐらいで実験しました。
参照(3月の投稿) 釉薬の自作について
釉薬を勉強するにあたり、釉薬ノートをつくりました。何をしたのか、何を使用したのか、どう思ったのかを、そのときの自分の知識の範囲で記入していきました。わたしは他にも作陶ノートなどもつくっています。記録しておくと何かと便利です。なにげない記録が、数年後大きな転機のもとになることがあります。
次に、焼きあがったものの調合から、ゼーゲル式を計算して比較しました。それにより、2成分系の調合の限界に気付きました。グラフのある領域から出ないのです。
その結果をもとに、陶磁器絵具店にいき、「・・・こういうことがわかりましたので、次は石灰とカオリンとケイ石を売ってください。」といいました。すると絵具屋さんも、「買ってよし。」といいます。(教えてくださいとお願いしたのでこういうやり取りがありましたが、普通は何でも買えますよ)
こうして、だんだんと勉強はすすんでいったのでした。このころのことは、いま思い返すと本当に懐かしいです。
■ゼーゲル式は必要か
まさか自分がゼーゲル式をやるとは思ってもいませんでした。訓練校の講座でも、試験があるから一応するけど、やっぱりセンスが一番でしょう、と思っていました。
エクセルでの計算シートや、津坂先生の本にCD-ROMがついているようですが、頭で理解して、筆算をしたほうが(電卓は使う)最初は良いと思います。そして、残念ながら、近道はありません。
美術系のわたしには、モルという概念を理解するのに苦労しました。そのために化学の簡単な本を買いました(マンガの)。計算自体は、モルの一覧表と計算方法の手本を見れば簡単です。津坂和秀「釉薬基礎ノート」の後ろのほうを見ればできます。
また、作品や仕事内容によっては、化学式は必ずしも必要ないかもしれません。三角座標を使えば、伝統釉の多くはカバーできるかもしれません。また作り手である釉薬屋さんと上手に付き合うのもとても大切だと思います。(それには産地に赴かなければなりませんが)
わたしも、現在のスタイルで仕事をつづけるならば、厳密には必要ありません。勉強した当初も、何かをせずにはいられなかった、というのがゼーゲル式を勉強した大きな動機だったと思います。
わたしがある方に教えられたことですが、こんな意見もあります。
「ゼーゲル式をおぼえることで、頭の中に釉薬のソロバンをもつことができる。それによって、自分で掘ってきた、分析表のない原料を使うときに、足りないものを感覚的に補うことができる。また、古いものや人の作品を見たときに、おそらくこれぐらいの調合であろうと見当をつけることができる。それがゼーゲル式を勉強する意味です。」
わたしも確かに勉強して実験したあとでは、観賞点がかなりかわりました。美術館や博物館で展示物の前にいる時間がとても長くなりました。そして、以前よりはっきり見たものが記憶に残るようにはなりました。
学校で教われるのなら、先生を質問攻めにして、しっかり理解することをお勧めします。将来邪魔になる知識ではありません。ああ、そういうことか、という程度の理解で十分だと思います。
また化学式に置き換えられる事象の少なさも同時に知ってください。(わたしはよく思い知らされています)
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