2020年08月23日

ロクロ動画を観る前に【注意喚起】

え〜今日の記事は長いです(笑)。


わたしの講座で受講生のみなさんに、どうして「陶芸」をしようと思ったのですか?と聞いたことがあります。すると9割以上の方がロクロに憧れて、という回答でした。

この答は意外でしたが、納得でもありました。たしかに「陶芸」という言葉を耳にして、多くの方がイメージするのはロクロ成形のシーンでしょう。

わたし自身も訓練校に入校した際には、生徒間で電動ロクロの腕を競い合ったものですし、トップグループにいることで得意にもなりました。全ては懐かしい思い出です。

今回は安全についてのお話をしたいのです。

25年近く前の春、わたしは愛知県の窯業高等技術専門校に入校していました。夏を過ぎ、ロクロの授業も進み、すっかり秋も深まった頃だっと思います。わたしの左手首にぷっくりとしたパチンコ玉のような膨らみが認められるようになりました。親指の付け根あたりで、触ると痛いのです。訓練校のK先生に相談すると、ガングリオンだろう、もう無理するなと言われました。相当凹みました。

毎日ロクロを回して、周囲と競い合い、お互いに高めあって、本当に毎日が充実していました。しかしこの手首のせいで、ロクロどころか、今後は手を使う仕事自体が無理なのではないかと危惧し、ガッカリしていました。

その年の暮、グループで穴窯を借りて焚くことになっており、その窯焚きに向けて薪の準備などで忙しくしていましたので、気持ちをそちらにシフトして、薪の準備や手びねりでの作陶などをしていました。

そんなある週末、外での薪の仕分けなどにも飽きて、数人で山の斜面に向かって竹の棒で棒高跳びのマネごとをして遊んでいたら、わたしは見事にバランスを崩し、身体と腕の間に竹の棒を挟み込んだまま、激しく地面に叩きつけられました。

「いってぇ〜!」と言って起き上がってみると、手首に激痛を感じました。見てみるとあのパチンコ玉のようなガングリオンが消えていました。ウソのような本当の話ですが、ガングリオンは、はみ出してきた元の場所へ竹の棒で押し込まれたみたいでした。

後日説明したら、K先生はウソだろ?って顔をしていましたが(実話です)、それから再発することもなく、毎日ロクロや課題に精を出して、わたしは無事に訓練校を修了しました。

陶芸の世界では、いくら才能やセンスがあり、恵まれた環境が整っていても、身体を壊して辞めていく人が毎年必ずいます。わたしも瀬戸時代に、そんな人を何人も見送ってきました。前述のように訓練校時代のわたしにもその可能性が大いにあったのです。

ですから作陶される方は、プロ・アマ、年齢に関係なく、腰や手首などには十分に注意して、身体のケアも怠らないようにしなければなりません。

わたしは数年前に、右、左、右と順番にテニス肘になったことがあります。おそらくはパソコン仕事と自転車のせいですが、いま思えばあれにも予兆があり、気をつけるべきだったと反省しています。


あなたが楽しみとして始めた「陶芸」で身体を壊してはなんの意味もありません。

しかし。

間違った認識での独学や、経験の浅い講師の指導で、身体にダメージを受けている人が複数いることを、最近になって知りました。わたしはいまは陶芸窯取扱業者ですが、陶磁器科職業訓練指導員免許を持つ陶芸講師でもありますので、そこら辺について厳しめに発信していこうと考えています。




まず、動画で言うと怒られそうなことから書いておきます。








YouTubeでロクロを晒している人の96.8パーセントは下手クソです。









ロクロ名人はYouTubeなんてしませんから(笑)。

まともな人や仕事が順調な人はYouTubeなんてしない、というのがわたしの持論です。だってわたしがそうですから。

もちろん、第三者が撮影してアップ、というのもあるでしょうが、それこそ稀な例でしょう。


当然わたしも下手クソです。


ただし、わたしは基本を伝えたいと考えてきました。
アナタに上手になってほしいと考えています。

やきものに興味をもっている方の、出来ない、知らない、を解消することで、窯の販売や修理に繋がると考えていて、実際にロクロが上手くなった人の窯を購入する確率は爆上がりだからです。


ここが唯一、他の方の発信の動機と大きく異なるところです。


自分の仕事紹介とか

人の発信に触発されてとか

作品などの販売促進用とか

教えたがりの勘違いボーイとか

不安をYouTubeにぶつけているとか


まぁいろいろな動機がロクロ動画にはあるかと思います。


繰り返しになりますが、わたしの発信の目的は、こうした方々と同じではありません。


このロクロ動画の発信の目的を大袈裟に言えば、やきもの作りを楽しむ人の安全と健康に繋がるからです。
陶芸は安全衛生の観点から見れば、実はけっこう危ない世界です。作業だけではなく、機材、材料、溶剤など書道の840倍ぐらい危険な世界です(ウソ)

窯一つ造ったことがない人の窯についての発信とか、第2種電気工事士免許さえない人の窯の修理とか、いろいろありますよね。

「ネットで調べれば自分でなんでも出来るぜ」と考えるのも自由だし、発信そのものも自由です。ネット環境が無ければわたしもとっくに埋もれていました。

発信する自由って最高!

でも、その自由には「リスク」というものがセットですから覚悟の上でどうぞ。


例えば窯。

無茶苦茶やって、ケガするのも死ぬのも勝手ですが業界が迷惑します。
わたしは迷惑を被りたくありませんので対処させていただきますね(笑)。



免許も経験もあるワタシだって築炉屋の世界では最底辺のカーストにいるということを知っておいてください。

おそらくどんな世界でもネットにはその程度の情報しか上がっていません。論文などは検索して見ることが出来ますが、読んでもワタシは理解できません(笑)。実体験があるからやれている部分もあります。動画を観る暇さえないゴリゴリのプロがこの世の中にはたくさんいるということです。


今回のロクロ動画ですが、安全に留意して身体の状態を第一に考えてほしいと思っての発信です。関節とか傷めると、数年かかることが多いですし、下手をすれば残りの人生ずっと、その痛みとだましだまし付き合っていくことになるかもしれません。そんなのイヤでしょ?



世界で一番大事なのはアナタ自身のはずです。
そのアナタの身体をどうか大事にしてください。

YouTubeやネットに惑わされないでほしいし、無茶な指導内容も無視していいんです。
発信する側も「世界で一番自分がカワイイ」と思っているということを忘れずに。



絶対に身体的な無理をしないで、やきものを楽しんでくださいね。











posted by inoueseiji at 17:56 | TrackBack(0) | イノウエセイジの頭の中
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