川瀬さんの動画で窯が登場してビックリしております。
お邪魔した際に快く見せてくださいましたが、大切な作品の焼成にかかわる部分ですからあえて「窯見せてもらいました〜。」とかは言わずにいた大人のイノウエです。
この川瀬さんの動画の内容は非常に興味深い。
わたしもこの動画に刺激を受けましたので、今までどこにも書かなかったことを今回は書いておきたいと思います。
以前なにかの動画で「最初の4時間、最後の2時間」ということをお伝えしたことがあるかと思います。この言葉は亡くなった初代大沢社長から、わたしが独立後に直に教わったことです。
まずはこのことをもう一度書いておきましょう。
大沢社長は当然ガス窯の焚き方について言われていますが、灯油窯などにも通じることであると思いますので参考にしてみてください。
まず最初の4時間というのは、点火してから最初の4時間ぐらいで炉内の状態を安定させることが重要だ、ということですね。
あぶりというのは実は非常に重要な部分で、倒焔式(倒炎式)の窯は、点火から扉を閉めてバーナーの炎の流れを煙道までしっかりとつくる必要があります。扉を開けたままはいけませんよというお話は過去動画でしていますのでここでは割愛します。
最初の4時間でもし温度ムラを作ってしまうと、なかなかそれが解消しないままで焼成が続いていくということです。厳密に4時間ということではなく、焼成初期段階をおろそかにするなよ、ということでしょう。
窯焚きの経験が少ない頃は最高温度ばかりに気が取られてしまうものですが、そこへ至るには初期段階の状態がとても大切です。ロクロでいえば土練りと土殺しが重要なのと同じことですね。
ここまでのこともいくつか発信しています。
ここからが初めて書くことです。
わたしは焼成指導などで、初めて焚く窯をその持ち主のお客様よりも確実に操作することを求められるわけですが、以前熱電対が2本刺さった大きめのガス窯の焼成指導を行ったことがあります。
熱電対が複数あれば嫌でも上下の温度差を数値で表示されるわけですから、なるべく差が小さくなるように、揃うように奮闘しなければなりません。ガス窯のような倒焔式の窯の場合、当然天井の方が温度が高く表示されるものですが、下との温度差が大きければお客様の目もありますので改善しなければなりません。
煙道への引きが強ければ上下の温度差は大きくなります。これは窯詰めの密度などで焼成ごとに変動します。自分の窯であれば何度かの焼成を経てそのクセをつかんでいくわけですが、一発で結果を求められる焼成指導の場合は裏ワザも使用します。
500〜600℃まで上手く上下の温度差が解消しなければ、わたしは敢えてエントツの引きを押さえ、炉圧もかなりプラスになるように(還元かける勢いで)、炉内を引っ掻き回すイメージでダンパーとドラフトを操作します。必要ならばバーナーのガス圧も操作します。こうすることでショック療法的に炉内の炎の流れが変わり、上下の熱電対からの数値に動きがあります。
注:必ず行うことではなく、あくまで裏ワザ的なことです。
こうすることで上下の温度差が改善することがありますが、そもそも完全に同じ温度にはなりません。それを求めることもナンセンスだと考えています。温度差が50〜100℃以下であれば良しとします。とにかく最初の4時間から6時間ぐらい、温度でいえばやはり600〜900℃の間に上下の温度差を落ち着かせなければ、川瀬さんの発信のように最後まで何をやっても上下の温度差が解消しないまま焼成終了になることが多いようです。
もちろん窯詰めの状態や、そもそもその窯の設計が問題ないのか、エントツに適正な長さがあるか、ということも影響しますが、点火からの数時間はエントツのあるガス窯や灯油窯で一番重要な段階と言えるでしょう。
薪窯であればこの段階は1〜数日になるかと思いますし、薪を投入した直後から次の薪を投入する直前の間で、炉内の雰囲気や炉圧は目まぐるしく変動していますし、そもそも炉内の温度差はありますから、薪窯の作家さんなどは意外と意識はしていないかもしれません。それでも薪窯のあぶり自体は、経験者でなければできない大切な工程であるのは周知のことだと思います。
現場仕事は段取り七分ともよく言いますが、窯焚きにおいて焼成初期段階の意識をどう持つかは非常に重要です。それでも、熱電対が複数あると悩みが増えるだけですよ、といつもわたしは言っています。特に小さめの窯ではシビアですからオススメしませんが、あえてそこを計測して様々なことを試すのは自分自身の成長に大きく役に立つことだとも言えるでしょう。
大きな窯の方がいいものが出来る、という嫌なオッサン作家の言葉の根拠はここにあり、大鍋でカレー作れば腕はそこそこでも美味しいくなる、ということでしょうか(また暴言)。
一番簡単な電気炉の制御は最高温度とキープ時間しか設定できませんが、4時間400℃は固定で触れないようになっています。もちろんいろいろなメーカーの様々な制御がありますが、ここでも4時間という数値が出てくるのは偶然ではないでしょう。
ちなみにこれは個人的な意見と経験からの発言ですが、点火から800〜900℃ぐらいまでの間にいろいろと操作して温度や雰囲気が変動しても、焼き上がりに妙な影響を及ぼすことはほとんどないと思います。例えば還元状態になったとしても短時間であれば釉調や素地はそう簡単に変化しません(窯焚きは時間です)。ですから、いろいろなことを試してみて窯焚きマスターへの道を模索してみてください。
さて、最後の2時間ですが、これはいつ火を落とすかを判断する段階ということです。これはこれで悩み多き段階ですが、これについてはまたいつか書きたいと思います。