2021年11月19日

気持ちは痛いほどわかるけれども


先日質問のメールをいただいた件で、いろいろと考えておりました。

場所や個人・団体などは伏せますが、みなさんのご考察の一つになればと思います。

ガス窯において、焼成初期段階において一酸化炭素警報器が発報したという事例です。


【設置状況と設備】

  • 公共の施設である
  • メーカーの型番から推察すると0.3㎥前後のガス窯
  • 施設としては数基目で設置後10年程度
  • 窯小屋は施設本館とは独立したブロック組の広さ20uほどの建物
  • 最近一酸化炭素警報器を設置
  • 焼成時には換気扇を使用し扉なども開放
  • 高齢者を中心とした複数のグループのべ数十人がグループごとに窯焚きを行う
  • 知識のある焼成の指導者はいない



【警報発報】

  • 還元焼成に移行する前段階の低い温度で警報器が作動
  • 施設の管理側やガス供給会社なども駆けつける事態になった
  • ガス供給会社の担当が焼成中のガス窯付近で一酸化炭素を確認した
  • 施設側は今後還元焼成は一切禁止と判断
  • 電気炉へ交換する計画がある

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還元焼成が出来ないのは残念だということで、ネットの発信から存在を知っていたわたしに質問者の方がメールを送ってこられました。施設側の判断はなにを根拠としているのか、メンテナンスは可能かというのが主なメールの内容です。

また複数いる使用者の中には、警報器の電源を落として使用すればバレない、そもそもこの警報器がおかしいのでは、という発言もあったそうです。また質問者の方もこれは本当に異常な事態なのか、セカンドオピニオンがほしいということでした。

メールの返信ですが、わたし個人としては遠すぎてメンテナンスすることは不可能とお伝えし、何度かのメールのやり取りの後、意見をまとめたメモを送付しました。

もしかしたら使用者として質問者の方にも、ガス供給会社の人間はどこまでわかっているのかという気持ちもあったのかもしれませんが、陶芸愛好家の100倍ガスとその事故事例に詳しいのは間違いないのです。

わたしはメールのやり取りの中で、どこか警報器を発報させてしまった事態を軽視しているその集団のノリが非常に恐ろしいと思いました。と同時に、その気持も痛いほどわかるとも思いました。その集団に自分がいれば同じ言動をとっているかもしれません。

とはいえ、まず通常の還元焼成で警報が鳴ることはありません。
鳴らすぐらいモーレツ強還元の作家さんもいるそうですが、それはあくまでも例外中の例外です。

まず警報器が鳴るということは有りえないということを強くお伝えしておきたいと思います。他の警報器でも集団なら無視しますか?

そして助成金や税金によって運営されている場所において、管理側の決定に背くこともありえません。

もちろん、こうした今回の事故未遂のような事案は、全ての学習館や生涯学習センターなど、公設や半官半民の施設で行われている作陶活動に内包されている大きな問題だと考えられます。


わたしも地元の生涯学習センターに講師として、十数年の長きにわたって関わってきました。その中で陶芸窯、野焼き、危険な溶剤などを受講生とともに取り扱ってきましたし、さまざまなトラブルにも遭遇したからです。

きっとその公共施設の運営体制も、自治体の正規職員は全職員の半数以下もしくは数名で、あとは委託された管理会社の社員、どちらかといえば不安定な雇用形態の方が働かれている例が多いと想像します。のんきに見えますが実際は大変な職場ではないでしょうか。

さて、前述のようにわたしの講座でもいろいろとトラブルは過去に起きましたが、利用者側にそういうトラブルの元になってしまう考え方があると思います。それはこの施設だけではなく、公共施設でのサークル活動や生涯学習講座全般が抱えている問題の根幹になっている考え方かもしれません。的外れかもしれませんが、たくさんの高齢者の受講生と関わってきたわたし自身の経験をもとに書いておきます。

利用者によくみられる傾向として、公共の施設を安価や無料で使わせてもらっているという感覚の欠如、陶芸以外にもさまざまな講座やイベントなど煩雑な業務がその施設や事務局の人間にあることへの無理解、そして一番は自分にはその施設を利用する権利はあるが守るべき義務はないという甘えです。

わたしの講座でもツクや棚板の状態は放っておくとあっという間に悪化します。自分でお金を払っていない設備や道具を、人は本当に適当に取り扱います。過去には講座内容とはまったく無関係の自分の作品を焼成していた人もいました。ある程度なら眼をつぶることもありますし、テストピースなら大歓迎ですが、基礎をおろそかにして家で作ってきたロクロの大物を焼成する義理はないのです。


もちろんこの公共施設の管理側にも責任があります。

一酸化炭素用の警報器を設置したのは良かったですが、おそらくはそのガス窯の設置業者もしくはメーカー、施設の管理側も、ガス窯使用時のマニュアルやチェックシートは作成していなかったと思われます。

とりあえずは安全マニュアルで十分でしょう。点火や消火の手順、ダンパーとドラフト、換気扇の確認、そうした手順を毎回守らせることは非常に重要なことです。

わたしも小さな会社や職人の世界にいたことが多かったですから、いちいち書類とか面倒くさ〜い、と結構最近まで思っていましたが、その記録が事故を防ぎ、人を守ることになります。
そうした安全対策も考えていきたいと思います。

とはいえ、管理側の方々は仕事をはじめた時にはすでに陶芸の教室なりサークルなりが存在して、その管理方法もわからないまま日々の仕事に追われてきたのに、事故が起これば管理責任を問われかねない。かなり際どい事態が発生して電気炉へ移行しようとすれば利用者からは「還元焼成が出来なくなる!これまでずっとやってきたのに」と反対意見が出る。それではあんまりでしょう。


利用者の気持ちはすごくわかります。
みんなでワイワイ還元焼成したいですよね!



しかしです。何の指導もなしで不特定多数の、それも高齢者中心の複数のサークルがガス窯を運用するのは無理があるのかもしれません。プロだって30年デタラメな焼成をしてきた人がいたりするのですから。

せめて講習会をひらく、安全管理を行う、今後はそれが必須だと思われます。

わたしが確認しているだけですが、この数年の一酸化炭素中毒の事故は民間の陶芸教室と公共施設ばかりで起きているようです。


わたしはガス窯メーカーで鍛えられましたから、ガス窯が電気炉になると聞くとその寂しさみたいな気持ちは理解できます。しかし電気炉にしか出来ないこともあり、燃料で窯の優劣が決まるわけでもありません。

逆に還元焼成できないという条件でどれだけの作品を作れるのかを競いあっていこうじゃありませんか。


それに。






















 誰かが亡くなってからでは遅いと思いませんか。


posted by inoueseiji at 16:09 | TrackBack(0) | イノウエセイジの頭の中
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