2022年01月19日

都合の良いオトコ

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むかし福岡へ引っ越すまでの一ヶ月ほどのことですが、瀬戸の外構屋さんでバイトをしていたことがあります。その時に入っていたマンションの新築現場で、自分よりも若いぐらいの、段取りが下手な、どうしようもない若い現場監督がおりました。

いつも社長や職人さんたちも彼をバカ呼ばわりしておりましたが、とうとうある決定的な失敗がおきてしまいました。当時今よりも血気盛んなイノウエは「ちょっとこれはガツンと言ってやりましょう!」と周囲に訴えました(オマエは短期のバイトだろ)。しかし社長の一声でみんなでその失敗を残業してでもカバーすることになり、結果として工事は無事に納期通りにおさまりました。

そして、わたしよりもちょっと歳上の社長がポツリと語った言葉が今も忘れられません。


「こういう仕事をしていると、またどこかの現場で必ず一緒になる。
仕事で喧嘩するときは本気でするが、失敗した相手は追い込むなよ。
ちゃんと助けてやるんだ。いつか助けてもらうときがくるから。」

一字一句同じではないですが、このようなニュアンスの言葉でした。

大切なのは仕事の喧嘩は本気でする、ということです。失敗を見逃すということではない。
喧嘩になるとしても怒られるとしても悲しませるとしても、ちゃんとディスカッションして現場と納期は死守するということでしょう。



とはいえ。
相変わらずイノウエは安く見られるようで困ったものです。
優しすぎてフラレてしまう都合の良いオトコです。


ビジネスとして陶芸に関わっているみなさんならば費用や経費に厳しくなるのは当然です。
そうした厳しい判断のもと、わたしから買ってくれるのかなぁ〜と思っていたら見積も出せずに他所の窯を購入されていた、なんてのはよくあります(修理だけたのまれても知らんヨ)

まぁそれに乗用車だったら、いつもホンダ車を買っていたのに、まさかジムニーが再び販売されるなんて、ということもあるでしょう。

黙って乗り換えてもいいでしょう。
不義理をしても車屋さんなんていくらでもありますからね。


陶芸窯の世界もそうだったらいいですね。


個人的に独立の応援などでその人のために無償で動くことはよくありますが、それで決まらなくても仕方ありません。

というか決まらない方が多い。

無駄足であっても、その出会いでいろいろな学びがわたしにもありますし経験値にもなります。200Vの電気炉に24Vの部品突っ込むような奇特な方や、安いプライドに一万円も払えないボンビーな准教授にも出会えます。

ときにフェイスブックやブログに感謝の言葉とともに載せていただく人がいたりすると、恥ずかしいやら嬉しいやらです。





数年前でしょうか、何度が補修の仕事をもらっていた陶芸教室の講師が自分個人のガス窯を購入したいとのことで対応したことがあります。当時心当たりもあり、その窯を案内しに行ったりしましたね。その後それっきり。

後で知りましたが結局その人は別のところから中古のガス窯を購入されていたようでした。安かったからなのかタイミングだったのかはわかりません。

だったらメール一通送ってくれればそれでいいのですが、ご丁寧にわたしのコメントと写真だけ削除して、新しい業者さんの工事の様子をアップしてあり、それ以降お仕事をいただくこともなくなりました。

そんなことをされれば普通カナシイよね。

プロになりたいのならば、営業活動とはいえ無償で半日潰した相手に、すいません、予算の関係でコチラの窯に決めることになりました、とか、その節はお世話になりましたがあの窯は大きすぎたので申し訳ない、とか、断りの連絡はしたほうがいいと思います。またいつかそちらに話をもっていくことも有り得るわけですから。

それでホントに数年するとその設置業者が廃業。
本人の窯も教室の窯も、対応する業者が突然いなくなったわけです。

先日、仕方なくなんでしょうが、かつてわたしへの不義理はなかったかのように連絡をしてきました。ネットというのは恐ろしいものですべての証拠が残っています。先ほどの窯や業者の件も、この連絡の後に調べてみて初めて知りました。そしてもちろん心情的にこの方の対応することはできないとお伝えしました。

そもそも設置業者が廃業したとしても、「世界に誇る」京都の製造メーカーは存在していますので代理店と修理業者を紹介してもらえばいいだけでしょう。高くつくでしょうが。





そもそも設置業者である福◯釉薬の福岡営業所が一年ほど前に突然のように閉鎖されたあと、多くの困った顧客の方々から連絡をいただいていました(広島本社は残っている)

中には「ふくおか陶芸窯さんが修理してくれると思いますよ」と言われたから、という方もいましたがに◯島釉薬からワタシに何か連絡がきたことはありませんでしたし、それを聞いた時にはちょっと虫のいい話のようにも思えました。

廃業はお客様には関係のないことですから修理対応は誠意をもって行いましたが、せめて福岡の営業所は閉じることになったので申し訳ないがお客様のことでお願いすることもあるかもしれない、といくつか存在する地元業者に連絡を入れておけば、対応するコチラの気持ちももっと違ったでしょう。それがお客様のメリットになることなのではないでしょうか。

もっともそういうことが出来ない、やらないという業種だったのかもしれませんが、これって大事です。状が回る業界はいくつかありますが、築炉業界もそうなったらいいですね。お客様視点で考えれば取り扱い業者が廃業しようが拡張しようが関係ないのですから。


で、この記事は何が言いたいのかというと、相見積もりをするならば断りもきちんと入れることが大切だよ、ということです。

プロの作家として独立したり陶芸教室を運営したりするならば、義理と人情と筋目は一応通しておくといいですよ、というお話なんです。仕事をやりとりするという意味ではありません。

わたしの同期の仲の良い人でも一切窯の仕事のつながりがない人もいますし、他メーカーさんの窯でもずっとワタシが対応している方もいます。正しい人間関係を構築しておくということがいつか必ずお互いのプラスになるのです。みんなビジネスだけどそれだけではない。

窯でつながっていないけれど仕事で協力することもあるし、廃業した他メーカーの修理を対応して新規の話につながることもありますし、知人を紹介されることもあります。

極端なたとえをいえば、明日ワタシが人間失格もとい廃業するかもしれませんし、10年後には西日本ではイノウエ以外の業者がすべて廃業しているかもしれません。


その可能性をアナタもワタシも想定しておかなければならないのです。




プロならばね(笑)。





posted by inoueseiji at 09:44 | イノウエセイジの頭の中

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