2009年10月16日

陶磁器の安全性について


先日、釉薬のことをネットで検索していましたら、「無鉛食器」という言葉が出てきました。

一体なんのことだろう、とそのページを見てみると、普通の安価な量産の白い器がたくさんありました。そこは、食器のみ、というショップではなくて、健康関連の食材などいろいろと雑多なものを売っているページでした。

要するに、健康志向の強い人に、安全無害なこの食器はいかがですか、意外と世間で流通している食器には鉛が入っていて、けっこう危ないのですが知ってました?、という感じです。


たしか2005年ごろ、大手スーパーの店頭で販売されていた、ボーンチャイナ(風)の食器から基準の3倍をこえる鉛が検出し、問題になったことがあります。

また、おなじころ、安売りされていた土鍋からも鉛が検出されたという報道があったように思います。

鉛を釉薬として使用したのは紀元前からで、その時代から、あらゆる国で使用されてきました。
わたしも楽焼をしますので、過去にこの件に関して、さまざまに調べてみたことがあります。
(といっても理系の人間ではありませんので限界はあるのですが)

鉛は元素の周期表を見てみると、シリカ(陶磁器の主成分)と同じ14列にあり、低温で容易に化合し、ガラス化します。(おお、理系っぽい説明!)

溶融温度範囲が広く、その釉薬は光沢があるなど利点が多いのです。
確かに、楽焼の釉薬の原料をもりもりと食べたりすれば、有害でしょう。しかし、適正な焼成を経た鉛釉の器は、必ずしも鉛を溶出するわけではありません。

過去に国外で、各種フリット、釉、珪酸鉛を体温に保った胃液に10日間さらして鉛の溶出量を調べた実験がありました。
(素木洋一「釉とその顔料」7.4 釉の耐久性より)

このときの溶出量はまったく問題のない量だったそうです。またこの実験から、4%酢酸液での鉛溶出試験は意味がない、ともいっています。

わたしは国が定める安全基準は必要だと思いますが、こうも思います。


 いったい、どこの誰が楽茶碗に米酢をなみなみと注ぎいれ、
 それを24時間放置してから、全部を飲み干すんでしょうかね?



上絵にしても、楽焼にしても、どうしてもこの辺の話はみんな濁してしまいます。わざわざ相手が不安になるようなことを言う必要はない、ということでしょう。

作者が誰だか分かっている場合、そのことにそこまで神経質になる必要はない、とわたしは思います。

逆に考えれば、本当に「ヤバイ」ものが、何千年も使用されるとは思えません。
鉛製の食器を使用していたような時代でも、全国540万戸以上の家庭が鉛の水道管を使用している現代でも、その利用価値は高いのです。
(安価なアクセサリー合金・バッテリー・塗料・重り・光学ガラス・航空燃料・はんだ・・・などなど広範囲にわたる)



それよりも、手仕事を値段で判断するような風潮こそ、あらためて欲しいと思います。

100円で売っても利益がでるような食器を求めた結果、製造地は海外になり、焼成温度は下げられて、挙句、鉛を使用するようになっのだろうと想像しています。安価な製品では、管理もそこまでしっかりできないかもしれません。



さて、最初に書いた、「無鉛食器」ですが、いちいち言わなくても、普通の国産食器は「無鉛」です。「無鉛食器」というのは、パンを売っている人が、うちのは100パーセントパンです、と言っているように聞こえます。

可能性のある上絵も最近は無鉛絵具になってきていますし、有鉛だったら内面に絵付けしないことが一般的だと思います。

わざわざそういうことを売る側が言い、それに買う側が反応している人がいる、というのは、それだけ買う側が無知だということです。
(HPには、そういう言葉に弱そうな人が好む商品がたくさんありました)

無知なのは、その人のせいではありません。この業界にいる人間の責任です。

なにも語らず、伝えずにきた。そのつけを払わされているのだと思います。
極端な例をだしますが、100円の食器と1万円の食器を並べてもわからない人がたくさんいるということです。はたしてそれは、買う側の無知だと言えるでしょうか。


世間の人たちは、自分が毎日使っているお茶碗が、1300℃近い炎の中をくぐってきた、ということを完全に忘れ去っているのです。

わたしは、陶、やきものというものは、炎の洗礼を受けた人類の宝物だと思います。
それを忘れずにつくり続けていきたいと、日々考えています。



まあ、100円ショップや雑貨屋の食器は知りませんが・・・。








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posted by inoueseiji at 10:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | イノウエセイジの頭の中
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