2009年11月11日

素焼きはいったい何度なのか?


わたしがやきものの仕事でもっとも嫌なのが素焼きです。
生の粘土が、はじめてやきものになる工程が、この素焼きの部分です。窯の中から、独特のボンッ、という音で作品のどれかが破裂したのを知ることぐらい嫌なものはありません。

素焼きで割れたらあまりにも情けないですし、割れなくてもキレがでることもあります。

また、窯屋の仕事で、素焼き専用の窯を修理の際に、痛んでぼろぼろになった鉄板が、溶接の炎ではじけ飛んで、よく顔を火傷していた辛い過去のせいかもしれません。

それからあの湿って熱い蒸気と有機物が燃える、あの特有の臭いもあんまり好きではありません。
みなさんはどうですか?


さて、素焼きはいったい何度で焼くのか、ということですが、

 あなたは何度で焼いていますか?

 そして、その温度にした根拠はなんですか?

 土によって、つくった物によって温度を変化させたりしていますか?


わたしの知っている人で、知識の少ない、若くて早い時期に独立したため、かなり長い期間、素焼きの温度をもっともキレがでやすい温度帯で焼いていた人がいました。

角物などが多く、かなりキレもでて素焼きで2,3割だめになるのを見越して仕事をしていたそうです。ある時、ふとしたきっかけで、わたしが素焼きのはなしになったときのことです。

その方が「何度でやってるの?」と聞かれ、「何度です。」とわたし。

「え?!」

「え、じゃあ何度でやってるんですか?」

「○○○℃」

「え〜!それはまずいでしょう!」

「そうなの?」

「・・・・。」

次の素焼きの時には、何一つキレなかったそうです。

「おかげで儲かるわ。」(実話:ちょっと脚色)



よく、粘土の結晶構造の中にある水(結晶水という)が抜ければ素焼きになるということになっています。その結晶水は400℃ぐらいから抜けはじめます。
また、600℃前後で、粘土の主成分であるシリカ(ケイ素)が一気に膨張するということになっています。

そうした劇的な変化が起きる温度は通り抜けておきたいですよね。そのため、それ以上に焼くのが素焼きということだろうと認識しています。

また、燃えてしまう物は燃やしてしまうためでもあります。粘土に混ざっている有機物などが燃えるときのガスを土の中から抜く、という効果もあります。

では世に言う800℃の根拠はなんでしょう。

これは、学校などでは温度計と物質の温度差を考慮して、ということになっています。つまり、温度の上昇時は、中にある器は、温度計の表示温度よりもまだまだ低いわけですから、その差を見越して600℃プラス200℃で800℃ということになっています。

しかし、世の中には400℃以下の人もいれば、陶器でも900℃ぐらいの温度で素焼きをする人もいます。(磁器は900℃以上ですが)

わたし個人の経験ですが、700℃と800℃では素地の感じが全く違います。こうした焼き締まり具合の違いは、おそらくかなり絵付けや施釉に影響するでしょう。

また、釉薬と土との中間層の形成に影響します。生掛けが雰囲気いいよね、などというのはこのためです。

わたし自身が人のアドバイスから実践していることは、複雑な形状や、型打ち、長皿などキレそうなものが多いときには、温度を高めにするとよい、ということです。

これは実践してみて、効果を実感しています。


素焼きにしても本焼きにしても、なぜその温度なのかを考えること、可能ならば実験してみることは、とても重要だと思います。

本焼きであまりに極端なことをするとすべてパアということもありますが、素焼きの温度を100℃ぐらい変更してみるのはアリではないでしょうか。

あなたが使っている土と釉薬によっては、え〜という結果があるかもしれませんよ。




★この記事もアクセスが多いため、関連する動画を貼っておきます。(2021年6月)





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posted by inoueseiji at 11:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 窯と焼成に関すること
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