2009年11月13日

窯の温度を知るには


先週の素焼きの話について、メールをいただきました。ありがとうございます。

その方が読んだ本で、電気炉での素焼きの温度の設定がいろいろと書いてあったそうです。例えば、何度で何時間キープなど、と説明があるそうです。

メールにあった温度の設定は初めて伺ったものだったので、興味深いものがありました。素焼きというのは、案外と奥の深いものではないかとわたしも考えます。

さて、窯の温度のはなしですが、例えば温度計がその温度を示していても、実際の炉中の作品は、昇温中なら指示温度よりも低いはずで、冷却中ならば高いはずです。

ですから、窯を焚く時には、温度計の数値と作品との温度差が少なくなるように、なるべくゆっくりと温度を上げたほうがいいわけです。

たとえば温度計が600℃であっても、実際の炉内の作品の温度は、もっと低いわけですから。

みなさんも、素焼きの窯出しで、お皿などの重なった部分に煤が残っていたり、色がグレーだったりしたのを見たことがありませんか?

煤が残っていたり、グレーだったりした部分というのは、焚いた時の温度計が何度であれ、その部分の温度が、かなり低かったということです。たしか、煤が燃えきるには600℃近くにならなければならないはずですので、そこはそれ以下だったのでしょうか。

素焼きの場合特に、窯の詰め方や、作品の重なり具合などで、かなり温度差ができるようです。

もちろん、一つの作品においてもその温度差は生じますので、素焼きといえども、十分に気を配って焚かなければならないのでしょう。いくら温度計の針だけを動かしても、同じタイミングで作品自体の温度が上がるわけではないのです。

ところが、人間やっかいなもので、針やデジタルで、「今この温度ですよ」と示されると、「そうか、今この温度なのね」と無意識に思ってしまうものなんです。(少なくともわたしは)

繰り返しになりますが、実際には大なり小なり作品と温度計の指示温度には誤差があります。もっと言えば、作品の表面と芯の部分でも温度差があるのです。

ある温度においておこる化学反応は決まっています。あとは、十分その反応させるための時間、ということになるのではないでしょうか。還元焼成に入る前に、900℃付近でねらしに入り、炉内の温度を均一にするように操作する、とはよく本などにも書かれています。

物を焼くのは、どれだけの熱をかけたのかが重要ですから、早く昇温させるよりも、ゆっくり昇温させたほうがいいに決まっています。

それを知る目安として、温度計と熱電対があるわけです。

さらに重要なのは、それ以外のものでも、温度を知る努力をすることでしょう。たとえば、ゼーゲルコーン、色見、自分の眼や手などです。

ゼーゲルコーンは、炉内に一緒に入れて焼き、それが解けて軟化した温度をその指示温度で管理するものです。ノリタケチップなど、ほかにも似たようなものがあります。

ゼーゲルコーンを使用するときの重要な考え方は、窯の温度(温度計が示した温度)が何度であっても、SK8のゼーゲルコーンが軟化してきれいに曲がったら、1250℃である、とすることです。

ゼーゲルコーンは熱量を測るもので、温度を測るものではありません。温度計との誤差で、ゼーゲルコーンはあてにならない、とか、自分の温度計は狂っているのでしょうか、などと不安になる人などがたまにいらっしゃいますが、それは捉え方が間違っていると思います。

わたしのガス窯で、わたしが還元焼成をした場合、SK8のゼーゲルコーンが倒れるのは1180℃前後です。そして、生涯学習センターの電気炉酸化焼成では、1240℃、わたしの100Vの小型電気炉では、確か1225℃前後です。

それぞれの窯で、同じカロリーがかかる焼成条件に違いがある、ということです。たとえれば、家のアルミの手付き小鍋と、専門店の大鍋で同じカレーを煮込んでいるということです。

もし仮に、誰かが、初めてわたしの窯で焚いたとして、このことを知らなければ、まちがいなく必要以上に温度を上げてしまうことになるでしょう。

まだまだ1180℃だと思っていても、実際には1250℃、SK8相当のカロリーがすでに作品には加えられているのです。

以前にも書きましたが、瀬戸の貸し窯で、棚板に釉薬を流した学生のほとんどは、流れやすい織部などの釉薬を掛けた作品を、根拠もなく教科書どおりの温度で焼成し、しかもゼーゲルコーンも色見も入れていない人ばかりでした。(もちろんわたしにもそんな経験はありますよ。)

先ほどの例をあげるまでもなく、この釉薬は1230℃ですよ、といった場合、ほとんどの場合は、SK7(ゼーゲルコーン7番:1230℃)という意味です。自分の窯で何度なのかはまったくわかりません。

その釉薬を、100Vの電気炉で焚くのか、ガス炉で還元するのか、薪窯で1週間焚くのかで温度計が示す温度は変わってきます。それでも色見もゼーゲルコーンも入れないで焼成するならば、数回の窯焚きをデータとするしかありません。それではあまりに労力がかかりすぎます。

ゼーゲルコーンは、1本が200円以上するかと思いますが、初めて焚く窯や、初めての焼成方法を試みる場合は、入れるべきではないでしょうか。

陶芸の仕事では、眼で見えるかたちで一つの基準をつくること、が、とても重要だとわたしは考えます。

ゼーゲルコーンなどあてにはならない、目で見ておぼえなくては、という方は温度計も使わないほうがカッコイイということもおぼえておいて下さいね(笑)。

一度ゼーゲルコーンの完倒温度が判れば、次からは使用せず、色見と温度計に頼ればいいわけです。

わたしも、はじめのころは窯焚きのたびに色見を何個も入れていました。

自作の色見は、作品と同じ土と釉薬ですから、一番の判断基準になります。もっとも取り出して急冷してしまいますが、どの程度とけたのか、焼き締まったのかがわかります。そして、うまくいったときのものは、次への参考に取っておけばいいのです。

わたしはこうした部分を押さえて、自分の中で基準をつくった上で、感覚的に薪窯などをするのは良いと思います。実際に、自分が楽や薪窯をするときに、頼りにしているのは、自分の眼や感覚です。

しかし、センスや感覚の前に、どこまでがストライクゾーンなのかを論理的に知っておくのは、決して無駄ではありません。極端な例かもしれませんが、5年の窯焚きの経験を、5回の焼成で得ることも可能かもしれません。

そしてわたしたちは、経験則に固まらないように気をつける必要があるでしょう。


ゼーゲルコーンを近くで売っていない方は、こちらでどうぞ。(回し者です)
http://kajita-enogu.com/








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posted by inoueseiji at 19:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 窯と焼成に関すること
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