エントツが大事なんだと言い続けて結構な年数がたちますが、まだまだ認知されません。
そもそも本体のおまけみたいに捉えている人もいるようですし、本気で製造していないメーカーもあるようです。太さ、長さ、素材、施工方法、曲げる必要があるときの考え方、雨仕舞などなど。
本体がどれだけよくても、エントツがダメだと全く焼成できません。
スズキの空油冷エンジンがいくら良くてもマフラーぶった切ったら音がうるさくなるだけでパトカーからは逃げられないってことですな。
年齢のせいかイヤミが本当に過ぎるようになったというか(笑)。
一発撮りでも編集しないと放送禁止になってしまうようになりました。
というわけで、動画だとエグいことになりそうな話を次の方のバトンとして書いておきます。
ほとんどの人は読まない方が良い内容です(R-35指定)。
時々あるお問い合わせ。
「エントツがおかしいと思うので作り直してもらいたい」
「うちの窯のバランスがおかしいと思うので見てほしい」
そういうときに98パーセントおかしいのは残念ながらアナタのほうです。
自分が間違っているのかも知れないと思ってみることも時には必要です。
特にあなたが以下に当てはまるのならば、もう一度あらためて窯炉というものに向き合ってみましょう。
1 窯のサイズが変わったらうまく焚けなくなった
2 これまでの人生で焼成した窯は自分の窯だけ
3 長い伝統を継いでいる自分はいつも正しい
4 陶芸に理科や数学は必要ない
5 焼成の記録を取っていない・グラフ化していない
6 築炉屋や粘土屋が偉そうにアドバイスするんじゃないよと内心思っている
何人かがお茶吹き出したり、心筋梗塞をおこしているかもしれませんが、ざっくりと説明します。
★1 窯のサイズが変わった途端にうまくできなくなる人は、そもそもガス窯などにおける焼成のメカニズムを理解していないと認めましょう。大丈夫です。前の窯ではうまくできていたのですから、それを補正すればいいだけです。ダンパーやドラフトの操作を何℃で何センチなんていう把握をしている方がこのタイプに多いです。前の窯のやり方でエントツを真っ赤にしているような人もいましたが、窯が悪いんじゃなくてアナタが悪いですからね。炎のある窯では炉圧を意識してください。そして火力は押し、エントツは引き、という認識です。ある空間の温度を上昇させるのが窯炉というものです。ではどうすればその空間の温度はあがるのでしょうか。前のガス窯は3㎥だったんだよねと自慢する暇があったら検索してみましょう。
★2 電気炉の経験しかないのに偉そうに窯の講釈タレたり、勉強会なんかを得意になって主催している方もいるでしょう。別に電気炉が悪いわけでも、ガス窯が偉いわけでも、薪窯が最強なわけでもありません。ただし自分の窯しか経験がないというのは自分が経験したマツダの教習車一台をもって世界の乗用車の歴史と製造について語っているのに近いことです。自分はまだ序の口で一方向の視点しかないという認識を持つべきです。複眼的に焼成ややきものを見れていないということを事実として受け止めましょう。これはわたしもですし、ある意味この世界の全員がそうです。ただ体験した数が多いか少ないかということで言えば、はやり多い方が有利ということになるでしょう。またこれは焼成回数にも言えることかもしれません。フェラーリをガレージに8台並べている人よりも、好きな1台を乗りまくっている人のほうが多角的にフェラーリを語れるでしょうから。
★3 時代はどんどん進んでいます。窯だってそうです。少なくとも裏の倉庫にこっそり設置されたガス窯には薪窯の口伝は通用しないことがほとんどです。また自分は焼成の作業を「見ているだけ」だったら、焼成と窯焚きについて適当なことを若者に吹聴するのはやめてくださいね。この世界で威張っていいのは自分で実践している人だけです。全行程それができるのがやきもののいいところです。器の作り方の本は本当に掃いて捨てるほどありますが、いまだに焼成方法のまともな本がほとんどないってどうなのよ。これは「俺の作り方は最強だぜ〜真似しろや〜」という人間は掃いて捨てるほどいるけれども「俺の焼成方法を見てみろや〜」という人間が皆無ということです。むかしは秘伝とか窯の秘密とか言っていたようですけれども、それは薪や炉の寸法などが違いすぎて共通点が少なかっただけなのかもしれません(そもそもたいした秘密ではないし)。でも今の陶芸家が使っている窯は薪であってもガスであっても同じメカニズムで焼成されているでしょう。
★4 数学のテストで0点取ったことがあるイノウエでも、ゼーゲル式を必死に勉強しました。また理系の考え方をしないとロマンにハマってしまいます。べつにどんなに適当にやっても手順と組成が正しければ正しい結果が生まれるものです。神棚や神頼みにも意味はありませんし(するけどね)、雨や台風のときの窯焚きで良いものが取れるのは苦労してびしょぬれで焚いたからではなく、空気中や薪の湿度や露地の水分、ドラフトの働きを強い風が不規則におこしてくれたから、なのかもしれません。出来ない、やらない、はいいとしても理系の考えを否定してはいけないですし儲かりません。ロマンがどうしてもやめられない人は骨董とかオススメします。
★5 時間と温度計の数字の羅列を手書きで行っていては焼成は上達しません。グラフ化していくことが重要です。またそれぞれの窯のサイズによってもおおまかな焼成時間というものはあるものです。たとえばガス窯ならそうです。それなのに無駄に何日もかけるとかガス屋さんが喜ぶだけかもしれません。1㎥でも24時間以内で焼成する人がほとんどでしょう。そのために耐火断熱レンガで造っているんですから。長く焚くならどの温度域を何故に、とつきつめておかないとこれまたロマンの入り口です。
★6 そう思っている人の窯をつくって原料を提供しているのは誰でしょう。最近では随分と減りましたがこのノリの方は依然いますし、いまではダンディなアマチュアの方に散見されるような気がします。窯を造る人が焚けなかったという部分がこうしたノリを過去生み出したのかもしれません。しかし、実際に一番科学的な知識をもって考察し、自分でも窯を焚いているのは原料に近い人たちです。レンガの種類や鉱物の組成を諳んじていないのならプロを敵に回すのはやめましょう。中にはこれまで一回も窯も焼成も体験していないのにどうしてかしらと思うほどコチラがお叱りをいただくようなこともありますね。まぁロクロ頑張ってください!
また怒られるかもしれませんが、わたしは窯と焼成に関して安全第一で発信をつづけます。
それが「窯の専門家」ってもんでしょうから(自分でプロとか専門家って言う人は(笑))。