三周まわって”シンポさんの電気炉に限っては”動画でおっしゃる通りでした、という話。
ヒーター線の素材、加工の方法、ヒーター線の取付場所、炉内容積、裏の配線の素材、接続方法、排気孔の有無、制御装置の仕様、などなどメーカーごとに全然違うというか、シンポさんだけ特に違います。
シンポといえば電動ロクロです。
わたしも何台も持っております。
スラブローラーも持ってます。
とはいえ。
窯について他の築炉メーカーと比較すること自体に無理がありました。
同じレベルで語りようがないですから。
でもね。
もしわたしが瀬戸で修行せずに、ただロクロだけをやっていて。
ず〜っと九州に住んでいたら、シンポさんの電気炉を購入したかもしれません。
なにしろ機材に関しては電動ロクロを通して「シンポ」という名前だけ、いやシンポさんしか知らなかったでしょう。
共栄電気炉製作所?
大沢ガス炉商会?
聞いたことねぇなぁ。
シンリュウなら聞いたことあるけど柳北信のことだっけ?
(これをオ◯ワ社長に聞いた人がいるのは秘密 笑)
そんな感じになっていたでしょう。
しかしわたしは瀬戸の築炉メーカーで修行してしまいました。
シンポさんの古い窯も貰いもので持っていますが、お金を出して買うことはないでしょう。
ということで今回は。
これまでの経験を総合して、電気炉の構造でみなさんから見えない部分の話をするつもりです。
まず。
電気炉は読んで字のごとく電気を熱エネルギーに変えて高温を得るものです。
窯は断熱も重要ですが、なによりも熱源がなにかというのが重要な要素ですよね。
その電気炉の配線に使用する電線の部材やその接続方法についてのこと。
今日はちょっと長いかも笑。
まずは動画で紹介されているDMT-01の裏を開けるとこんな感じです。
白い電線は2sq(2スケと読みます)。
細い銅線を束ねている電線、より線です。
より線とは細かい銅線が何十本も撚り合わせてあるということです。
KIV線(可とうビニール絶縁電線)のように思えますがどうなんでしょうか。
四角い接続金具でヒーター線のつながっていますから、被覆はいくらなんでも普通のビニールじゃなくて耐熱のH-KIV線というもの、もしくはそれに近い被覆電線なのではないかと思ったんですが。
市販の電線は被覆にメーカー名とかサイズの表記がありますが、確認できなかった。
記載があった個体もあったと記憶していますが、この写真のものでは無かったようでした。
ビニール被覆だと耐熱温度は60℃ぐらい。
H-KIVだとしても80℃ぐらいで、メーカーで若干差はあるようです。
でも、実際に補修の際に触った感じは「これ耐熱か?」という感じです。
窯を製造しているのは中国工場ですからわかりません。
2sqだと端子のサイズも小さいです。
写真のものはDFA-8(8.3kW)の配線の割れた圧着端子です。もちろん交換しました。
それにしてもDMTと同じ電線サイズってのがコストを押さえていてスゴいですが好感は持てませんね。
とはいえ違法ではなく、ちゃんと法規上問題ない製品を製造されています。
こっちとは常識が違うだけで、安心して購入していただけます。誤解のなきよう。
せっかくですから宣伝しておきますね。勝手にリンクすいません。
税込48万円ですが実売価格は40万円ぐらい。DFA-8 本体のみ税込100万円以上ですが実売価格は80万円ちょい。
あと設置費と電気工事費かな。
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ふくおか陶芸窯が取り扱うKCシリーズを見てみましょう。
KCシリーズは共栄電気炉製作所製の電気炉です。
手前の青いK-240C。
真ん中はK-2430C。
この2機種は100Vの家庭用電源で使用できるモデルです。
240Cは税込39万ちょい。
オジサンのサポート付きです笑。
炉内は丸いです。共栄電気炉製作所さんも100Vで四角いモデルがありますが。
なぜKCシリーズは丸いのかという話は以前動画にしましたのでよろしければご覧ください。
まぁそれはいいとしてKCシリーズです。
裏返して配線部分を見てみましょうか。
白い電線は「シリコンゴム絶縁ガラス編組線」という特殊な耐熱電線です。
この電線の主な用途のひとつに「電気炉」とカタログに明記されています。
180℃の環境まで使用できます。
そしてヒーター線につながるこの白い電線だけは太さが3.5sqです。
許容電流は2sqの1.7倍ぐらいになりますし、物理的に太くなるのは安心です。
そして端子台につながっている黒い線がシンポさんの電線と同じサイズの2sq。
sqとはスケアのことで電線のサイズを表す規格の一つです。
2sqとは2平方ミリメートルのことです。3.5sqとか100sqなどと表します。電線はなかの銅線のサイズを基準にしないといけません。電線の被覆はいろいろな素材やサイズがあって、おなじ2sqでも電線自体の太さはさまざまです。
3.5sqと2sqの導体(銅線)を直径でいえば2ミリ強と1.6ミリという感じです。
許容電流はメーカーで若干の差はありますが、それぞれ40Aと24Aです。
このように電線でこの直径の差はかなり大きいのです。
どこにどの線を使うのかはメーカーの考えや業界の常識で決まっていくということです。
KCシリーズは円筒形の炉内を窯の上半分に設置して、配線や制御装置を一番下に配置することでファンレスになっています。
つまり電気炉の稼働中にファンがまわる音がしないということです。工房ではない普通の部屋ではこれは大きいです。
また以前もどこかで指摘しましたがDMTには排気孔がありません。
DFAは天井部にありますが、それはKCシリーズの排気孔よりも小さい。還元焼成対応ということもあるでしょう。
エントツの無い電気炉で「設計する側が」排気を意識しているのかしていないのかは、本体に様々な影響を与えるのは間違いありません。
これも電気炉選びの非常に重要な要素になると断言できるでしょう。
共栄電気炉製作所の本社工場は岐阜県多治見市にあります。
愛知県瀬戸市のお隣で、ご存知のようにどちらも”やきもの”の街です。
もちろんメイド・イン・ジャパンです。
(電気炉一筋80年!)
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ここからはわたしの個人的な感想です。
シンポさんで電気炉を設計した方は「140キロのスピードメーターがついているクルマは時速140キロで走り続けられる」と思っているじゃないかと想像します。
電線などを選定するのにカタログだけで選んでいたんじゃないのかなと疑いたくなる。
そして、あまり窯焚きをしていない人なのではないでしょうか。
違ったらごめんなさい。あくまで個人の感想です。
まぁでも、スピードメーターや圧力計のような計器というものは、通常使用する数値の倍ぐらいを選択するというのが常識です。
例えばガス窯であれば、焼成中にガス圧を20kPa程度までしか上げないのだったら、その窯には50キロパスカルの圧力計をつけるのが正解です。
測定値が20kPaだからといって20キロパスカルの圧力計をつけてはいけません。
それはなんとなく想像できると思います。
電線でもそうです。
電気の世界の常識として、15Aなら20Aのブレーカーを、30Aなら40Aのブレーカー、75Aなら100Aをつけるとか、ゆとりをもたせるようになっています。電圧も同様です。
前述のように電線も太さによって許容電流が、種類によって電圧なども決まっています。
なにかに配線をするときに、許容電流や電圧ギリギリで使用する感覚は電気屋さんには普通はないと思います。
というかそんな職人も配電盤も見たことないです。
耐火断熱レンガなどの断熱材もそうです。
1500℃が上限のレンガで1250℃の窯を造ったら長持ちします。そのレンガでファインの窯を造ったらもちませんよ。カタログの数値は上限であって常用の使用範囲ではないということです。
50.0からアウトだと言われて49.9までセーフという考え方をするのか(ドーピング検査とかさ)、じゃあなるべく低い数値でやっていこうと思うのか。
これはやっぱり思想の問題だと思うんです。
作る側も使う側も、です。
炉内の広さもそうなのかも。
ヒーター線の熱量から計算上はこれだけ大きく出来るとしても、大きくなればヒーター線の寿命に影響します。その際に何回ぐらいの本焼きで寿命がきたらお客様は納得するのか。
もちろん機材ですから使用方法によって大きく変動はします。
でも誰がやっても1250℃で100回は持たないのは事実のようですし、ヒーター線の寿命に納得はされていない人が多いようです。
それよりも「業界一の炉内スペースの広さ!」と言える方がいい。
性能や寿命よりも「業界一」は確かにインパクトありますもんね。
「K-240Cのヒーター線は300回以上本焼きできました!」は想像しにくいかぁ〜。
(理想的な使用状況によるもの:厳密には370回オーバー)
そしていつの間にかシンポさんのカタログから消えているガス窯と灯油窯。
もうそういう経験がある人はいなくなったのでしょうか。
まぁガス窯なんかは前から得意ではなかったようです。
あとは購入する前に検索するのかしないのか、ネットで買えれば面倒なくていいやとか、ちゃんとしたところで購入しようとか、お客様が判断すればよいことです。
どっちがどうではないです。
シンポさんの選択した炉内の広さも正義です。
焼成中に開かないようにするロック機能も正義です。
子供がやけどしないように排気孔を設けないのも正義です。
利用者にヒーター線の交換をさせるのも正義。
一人ひとりに正義があるように、メーカーごとに正義があります。
あとはその正義をくらべて同じ方向を向いているかどうかを確認しておくだけです。
なにも間違ったものは販売されていません。
ただ購入しようとする人たちのリサーチや選択は間違うことがある。
だから情報発信して、共有して、ときには注意喚起していこう、とわたし個人は考えています。
ふくおか陶芸窯にも、シンポさんの電気炉をもっている、使用しているという個人や法人のお客様がいらっしゃいます。
これまで通りサポートするだけではなく、今後は必要に応じて電線の交換などを行っていこうと思います。
窯は大切な設備であり道具です。
ご質問等はいつでもお問合せください。
購入を検討されている方の資料請求もお待ちしております。