なぜ今、この話を書くのか
最近、プロの陶芸家でもガス窯や灯油窯を選択する人が減ってきていると感じています。
その要因の一つに、「操作方法がわからない」「なんとなく不安だ」という気持ちがあるのではないかと思っています。それがわたしがこの情報を発信し続けるきっかけでもあります。
しかし実際には、ガス窯や灯油窯の焼成は難しいものではありません。原理原則さえ理解してしまえば、むしろ自由度が高く、ある意味でなんでもできる窯です。量産の現場では今もほとんどがガス窯です。それだけ信頼性が高く、汎用性がある。
これから中古のガス窯や灯油窯の流通も増えてくると思います。せっかくの選択肢を「なんとなく怖い」という理由だけで手放してほしくない。そのためにも、この情報をできるだけ多くの人に届けたいと思っています。
まず前提−−適切なエントツが設置されているか
ダンパーとドラフトの話をする前に、まず確認しなければならないことがあります。
窯に適切なエントツが設置されているか、ということです。
クルマやオートバイに、どれだけ良いエンジンを積んでいても、適正なマフラーが付いていなければ能力を発揮できない−−窯とエントツの関係はまさにこれです。いい窯かどうかの前に、適切なエントツが設置されているかどうかが重要です。
エントツには「エントツ効果」というものがあります。高いエントツを設置すれば、自然に吸い込む力が生まれる。単純な説明ですが、これがエントツ効果です。その太さや素材、形状も影響しますが、通常のガス窯であれば4メートル程度は必要です。窯のサイズによって太さを変える必要がありますが、ほとんどのメーカーは3種類程度の太さを用意して対応しています。
エントツは長すぎるくらいが理想です。あとはダンパーとドラフトで調整するからです。この前提なしに、ダンパーとドラフトの話はできません。
ダンパーとドラフト−−それぞれの役割
ダンパーとドラフトは、どちらもエントツへの排気の量と流れをコントロールする機構です。ただし、その仕組みと役割は異なります。
ドラフトは、窯の煙道が直角に曲がって上に立ち上がる場所にある穴です。レンガの栓を複数用いて、閉じたり開いたりします。これはストローに穴が開いているような効果があります。穴を開ければ外気を取り込むので、炉内の排気を抑えることになり、その排気量が変化します。
ダンパーは、板状の耐火物を煙道に差し込んで、物理的に煙道の断面積を変化させるものです。差し込む量によって排気の量をコントロールします。わたし個人の感覚では、排気のスピードをコントロールする感覚です。
この二つの使い分けを、自転車の変速機に例えるとわかりやすい。ドラフトがフロントディレイラー、ダンパーがリアディレイラーです。大きな調整がドラフト、細かな調整がダンパー−−そういうイメージです。
他のたとえを考えてみましょう。たとえば煙道からエントツへの流れを、渋滞なく流れている大きな3車線の道路に例えれば、ドラフトを開けることは自分が走っている3車線の道路の左側に合流する車線があるような感じです。合流するクルマがひっきりなしで、実質1車線が合流車両に取られてしまいました。3車線は炉内からの排気で、そこを走っているクルマが炉内からの排気です。
そしてダンパーは3車線の道路に突然現れた工事区間で、1車線が規制され、その車線のクルマが隣の車線にウィンカーをつけて合流しようとするため、道路が若干渋滞気味になり、全体の走行スピードが下がる感じでしょうか。2車線が規制されれば完全に渋滞になり、流れは止まってしまいます。ダンパーを閉めすぎる状態、とも言えるかもしれません。
極論を言えば、どちらかだけの操作でも問題ない場合もあります。しかしダンパーを閉めすぎれば、煙道が物理的に狭くなってしまいます。そこで、たとえばドラフトのレンガ栓が6分割されているのであれば、そのうちの一つを取る。そうすると外気が吸い込まれますから、ダンパーを閉めるのと同じ効果になります。この組み合わせ操作が重要です。

ダンパーを閉じたまま焼成すると、事故が起きる
ここで、非常に重要な話をしなければなりません。
ダンパーを閉じたまま焼成を続けた結果、死亡事故が起きた事例があります。一酸化炭素中毒です。
煙道が完全に塞がれた状態で焼成を続けると、燃焼ガスが逆流します。密閉された空間で一酸化炭素が充満すれば、命に関わります。ダンパーとドラフトの操作は、単なる焼き上がりの問題ではありません。安全に直結する操作です。
この認識なしに窯焚きをしてはいけません。
押しと引き−−炉圧を理解する
ダンパーとドラフトを理解するために、もう一つ重要な概念があります。
押しと引きです。
押しは火力を上げることです。アクセルを踏み込む感じです。引きはエントツへの排気です。当然、引きすぎれば炉内の熱がエントツから逃げていきますから、温度が上がりません。
この押しと引きのバランスをどう把握するか。
炉壁には確認用の穴が開いています。そこにライターの火をかざして、炎の状態を見ます。
- 炎が動かない → 押しと引きのバランスが取れた状態
- 穴に吸い込まれる → 引きが強い状態(排気過多)
- 吹き返される → 押しの状態(炉圧が高い)
- 目視できるほど炎が吹き出す → 還元状態
デジタルの計器ではなく、ライターの炎という明確な判断基準を持つ。これがベテランの窯焚きの基本です。
還元焼成とは何か
還元焼成についても整理しておきましょう。
還元状態とは、炉内へ供給される燃料に対して、その燃焼のための酸素が不足した状態のことです。これを作るために、ダンパーとドラフトの操作で排気を絞りつつ、ガス圧を上げるという操作をします。排気を「押さえながら」火力を「上げる」−−一見矛盾するような同時操作です。
この操作によって炉圧が上がり、ライターの炎が穴から吹き出すような還元状態が生まれます。
ただしここで注意が必要です。還元をかけようと焦ってダンパーを閉めすぎると、煙道が詰まって危険な状態になります。だからこそ、ドラフトとの組み合わせ操作が重要になるのです。
マニュアル通りでは、窯は焚けない
ここからが本題です。
ダンパーとドラフトの操作を理解していない人には、共通した特徴があります。
「何時になったらこうする」「何度になったらダンパーをこうする」「還元焼成にするときにはダンパーを何センチ入れる」−−こういった把握の仕方をしている人です。
マニュアル通りにやれば、いつも同じ結果が出ると思っている。しかし現実はそうではありません。
気温、気圧、湿度、窯の中の作品の量、棚の組み方−−これらは毎回違います。同じ操作をしても、夏と冬では全く結果が違う。湿度が高い日と乾燥した日では、排気の状態も変わります。作品が多く詰まった窯と、少ない窯でも違う。
これらの変化に対応するために、ダンパーとドラフトがあるのです。
マニュアル通り派の人が直面する失敗は、現場でよく確認できます。温度が上がらない、焼成時間が不必要に長い、引きが強いままで無理に火力を上げるから燃費が悪い、エントツが赤熱する、それによる火災やボヤ、作品が安定しない−−そして窯が変わると途端に操作できなくなる。
窯が変わると操作できなくなる、というのが特に象徴的です。特定の窯のマニュアルを覚えているだけで、原理原則を理解していないからです。少し脱線しますが、同じような理由で、”自分の窯だけの焚き方”を他の窯で行おうとしたり、それを基準に人に指導をして、トラブルや事故を起こすこともあります。ほかの窯を使っている人のアドバイスや顔の見えないネットの情報などは当てにしてはいけません。全ての窯はある意味違いますが、原理原則は同じです。それさえわかってしまえば、なにも難しいことではありません。他所の台所でいつもと違う鍋でお湯を沸かすような話です。
電気炉とガス窯−−それぞれの特性を活かす
ここで少し、窯の種類の話をしておきましょう。
電気炉はプログラム制御ができるので便利です。ある温度をずっとキープすることができる。炎のある窯では不可能な焼成パターンを作ることも、それを何度も完全に再現することもできます。これは電気炉にしかできない強みです。
一方、ガス窯や灯油窯は炎の流れを想定した設計です。その炎の流れを利用して、還元でも酸化でも、様々な雰囲気を作り出すことができます。窯の中の場所によって表情が変わる、その豊かさは炎のある窯ならではです。
どんな燃料の窯にも一長一短があります。問題は、その窯の利点を活かした仕事をしている人が少ないことです。
電気炉を使っているのに、プログラム制御を活かしきれていない。ガス窯を持っているのに、炎の流れを意識した焼き方をしていない。道具の特性を理解せずに使っている−−これは非常にもったいないことです。
電気炉でしかできないスタイルがあります。ガス窯だからできる方法があります。まず自分の窯が何を得意としているかを理解する。その上で、作りたい作品を考える。この順番が、道具を活かすということです。
今すぐエントツを見直してほしい
新しくガス窯や灯油窯を検討している方だけでなく、すでに使っている方にも、ぜひ一度自分のエントツの設置状態と操作方法を見直してほしいと思っています。
エントツが短すぎる、直角に曲げている−−そういう事例が実際によくあります。
エントツの形状については、クルマやバイクのマフラーを想像してもらえればわかりやすい。マフラーを直角に曲げることはしませんよね。曲げるのであればゆるやかに角度を持たせて、その先に十分な長さを確保しているはずです。
学校のような建物で1階が窯場という場合、エントツが途中で曲がるのは仕方ありません。しかしそういう場合でもできるだけ直角にはしない。なるべくゆるやかな角度にして、外に出た垂直部分も十分な長さを確保する。これが基本です。
自分のエントツを見直すポイントはシンプルです。
- 長さは十分か(ガス窯であれば4メートル程度が目安)
- 直角に曲がっている箇所はないか
- 曲げている場合、その角度はゆるやかか
- 外に出た垂直部分は十分な長さがあるか
「なんとなく温度が上がりにくい」「焼成時間が毎回長い」と感じている方は、ダンパーやドラフトの操作の前に、まずエントツの設置状態を確認してみてください。意外とそこに原因があることがあります。わたしもこれまで、他メーカーの窯のエントツだけをやり直す工事を行ったことが何度もあります。
最後に−−ガス窯は「なんでもできる窯」である
ダンパーとドラフトは、単なる排気の調整機構ではありません。窯の中の世界を読み、押しと引きのバランスを取り、安全を確保しながら理想の焼き上がりに導くための、窯焚きの根幹です。
そしてその操作に必要なのは、マニュアルではなく理解です。数字ではなく判断です。
ガス窯や灯油窯は難しい窯ではありません。原理原則を理解すれば、電気窯では到底できないような焼き上がりを、自分の手でコントロールできる窯です。還元焼成、酸化焼成、その中間−−焼き方の幅が圧倒的に広い。量産の現場でプロが選び続けてきたのは、そういう理由です。
これから中古市場にガス窯や灯油窯が出回る機会も増えてくるでしょう。「操作が難しそう」という理由だけで選択肢から外してしまうのは、あまりにももったいない。
ライターを一本持って、炉壁の穴に火をかざしてみてください。その炎が、今日の窯の状態を教えてくれます。
原理原則を理解した瞬間から、窯焚きは怖いものではなくなります。
※生成AIとともにこれまでの記事をまとめました。窯の操作について、相談するところが無い方は遠慮なく、ふくおか陶芸窯へご連絡ください。080-9534-7310