燃焼のはなしの途中ですが、この数日の間でのことなので、気持ちが新鮮なうちに書いておきたいと思い、今回はこのネタです。
どんな窯の話だ?と期待された方には申し訳ありませんが、実はこれは陶芸の窯ではありません。
防火壁の耐火試験のための試験炉です。
ある金属加工メーカーの方がわざわざネットで調べて、わたしの所に連絡をしてくれました。お盆休み直前のことです。
最初はHP上に紹介していた中古のガス窯が欲しいということだったのですが、一体普通の企業がなんのために窯が必要なのだろうかと思い、話をしてみると、建材の壁材の耐火試験に使いたい、ということだったのでした。
条件を聞いてみると、商業施設の壁に使用される新製品の試験だそうで、なんと、40分で950℃にしなければならない、という陶芸の世界にいる人間としては、とんでもない条件だったのでした。
さすがに、そんな短時間で昇温させたことなどないですし、しかも取り付ける試験体は、最低でも1メートル四方のボードだそうで、それ以上小型にするわけにはいかないということでした。
相手はちょっと名前は控えますが、大きな会社ですし、設計、営業、工場のお偉いさん(?)の3人がわざわざアトリエまで来てくれてのはなし、無碍に断るのもかわいそうです。すでにこれまで社内でいくつか試験炉を製作して失敗し、もう予算もない、ということでした。
細かい打ち合わせの経緯は割愛しますが、最終的には、相手は加工メーカーですので、窯のフレームは自社で製作し、わたしのほうで設計や材料などを提供して欲しいというお話になりました。
とにかく、瀬戸の築炉メーカーなどに相談してアイデアを出してみましょう、ということに。
とはいえ、陶芸の世界で、1時間以内のうちに炉内を1000℃近くまで上げることはありません。そのため、どうしても常識にとらわれてしまい、なかなかいいアイデアも浮かんできませんでした。
はっきり言えることは、たとえ真っ白な耐火断熱レンガであろうとも、レンガを使用してはその条件は難しい、ということです。
1メートル四方の試験体を扉にして、なるべく薄くするとはいってもバーナーの炎が動く幅が必要ですし、扉になる建材に直接炎を当てない、というのも条件になっているため、どうしても炉内の幅が50センチぐらいは必要になってしまいました。そのため、タバコの箱を横に倒したような形の窯になりました。
試験炉の容積は、1mx1mx0.5m=0.5m3 ということになります。
これはわたしの窯とほぼ同じぐらいのない容積です。それを40分で950℃にしなければなりません。レンガを使ってしまうと、点火後にまず窯のレンガに熱を取られてしまいますから、なかなか温度が上がりません。
レンガが使えないということは、その代わりになる耐火物を使用し、さらにその断熱性がレンガよりも良くなければならないのです。
そんな材料があるのか?
あります。
それはある種の耐火ボード製品で、大変熱伝導率が低く、低蓄熱量ですので炉壁への熱の損失がレンガよりもはるかに低いのです。
また、アルミナシリカ系の耐熱繊維なので、ふかふかとやわらかくて軽く、加工もまあまあ簡単です。そしてなんと最高仕様温度は1300℃なのです。
これまでの仕事で使用したことも何度かはあります。
ただ、高い。
何度かの打ち合わせや見積の結果、このボードと同じく600℃ぐらいまで耐えてくれる断熱ウールという断熱材との2層構造で試験炉を製作し、ガスバーナーは4本つけることになりました。
材料を納入し、その後工場に出向いて、わたしも一緒に製造にかかわりました。ステンレスのピンで溶接しながら留めていくのでレンガを積むよりは早く仕事ができます。一気に完成させて、二日目にもう試験焼成をすることになりました。
その二日目。
はたして上手くいくのでしょうか・・・。
ものすごい不安が、イノウエセイジの頭の中を過ぎります。
試験体である、金属製の枠の中に耐火物が入っている建材ボードを扉代わりに取り付けます。ガスボンベのバルブを開けて、ガス圧をいきなり高めにして、最初から全てのバーナーに点火しました。
デジタルの温度センサーの数値はいきなり上昇していきますが、炎が当たっているだけの最初の段階では、温度計の数値はあてになりません。
しかし、温度計の数値が落ち着いてきた点火後20分ほどで、炉内は800℃を超え、30分で900℃に達しました。
60分の試験を終えて、非常に良好な結果を得ましたので、相手の方々には非常に喜んでいただきました。これで上手くいかなかったら、今頃メルマガを書いていないかもしれませんね・・・。
それにしても、このアルミナシリカ系のボードはすごいですね。
なにがすごいと思ったかというと、あっという間に冷めてしまったんです、この試験炉。950℃で終了して、1時間半ほどでもう100℃ぐらいになっていましたので、試験体を外して内側を確認することができました。
つまり、このボードは、レンガなどと比べると、まったく蓄熱しないということです。いくら炉内に何も入れていないとはいえ、レンガで作った窯の場合、そんな短時間で温度は下がりません。
(もちろん逆に、こんなに短時間で昇温もしませんが・・・)
正直言って、できるのかどうか非常に不安でした。
温度は大丈夫だと思っていたのですが、時間がクリアできるのか、というのが最大のネックでしたが、まさかこんなに簡単にできるとは思いませんでした。
新しい素材を知ることもとても大切ですね。
新しいといえば、試験をした建材の耐火壁は商業施設などの通路などに使用されるそうです。たくさんの人が逃げる時間を稼ぐために、非常に厳しい条件が国から求められているそうです。
いいことなのか、悪いことなのか、こうした条件の変化は、数年前の耐震偽装問題からだそうで、各メーカーが新商品の開発、既存の商品の撤退、などさまざまな動きがあるそうです。
この試験炉で社内試験を繰り返し、本試験は国の施設で年明けに行われるそうです。その本試験も小さな普通乗用車の購入費用ぐらいの費用がかかるそうです。
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