2008年08月25日

ガスの話


自分たちでガス窯をつくるときに、たまたま図書館にあったガスの本で勉強したことです。こういう知識は知らなくても陶芸をすることはできますが、ガス屋さんと仲良くなったりすることができます。(注文までもらっています)

わたし自身、美術・陶芸の世界にいたので、きちんと勉強するまで色々なことを誤解していました。例えば、ボンベが大きくなるほど圧力が高いと思っていましたが、実は20Kボンベも充填所の巨大ボンベも内圧は同じなんです。

それと、ガスは100%の濃度の時には全く燃えません。空気中で2.2〜9.5%の濃度になったときに初めて燃えるようになります。逆に考えれば結構酸素を必要とするんですね。

陶芸窯で使用するプロパンで24倍、ブタンガスで31倍の酸素を必要とします。(酸素量です。空気ならばさらにこの5倍必要)これには人間の呼吸の分は含まれません。一酸化炭素中毒には十分気をつけましょう。陶産地でたまに一酸化炭素中毒の死亡事故がおこったりします。

経験者の話によると、意識の喪失は、じわじわというよりも突然くるそうです。山小屋で一斗缶で焚き火を4人で囲んでいたら、一人が突然倒れ、大丈夫かと声をかけた二人目も倒れ、窓に向かう途中に三人目が倒れ、四人目が窓を開けてどうにか全員助かったそうです。最初の一人に聞くと、突然のことでまったくわからなかったそうです。このように突然で、個人差もあるようです。とにかく仕事場にガス窯がある人は、換気には気をつけてください。(うちは外に別の小屋があります)

それと、わたしが数件経験がある事故が、窯焚きの途中でボンベのガスがきれてしまい、バーナーのコックをそのままにボンベの切り替えまたは付け替えをするというもの。

新しいボンベをつないで、コックを開け、引火して火がついているだろうと窯にもどると、思いと裏腹に火はついていない。おかしいな、ともう一度点火棒を窯に突っ込んで火を点けようとしたら爆発。(ちなみにボンベは独語で爆弾)

屋根が浮き上がって修理に呼ばれるという事故。ガスの自然発火は500℃なので、それよりも低い温度ではこうした事故がおきます。そもそも、いったんガスがきれたら、必ずコックを閉じましょう。

あるところでは、色見穴の栓にしていた小さなレンガが爆風で飛んで、ベニアの壁に穴を開けていました。一つはその方に当たり、けがをされていました。おそろしい。こういう事故は、ほとんど経験年数の長い方がしていました。だんだん横着になるんでしょうね。交通事故とおなじですね。

脱線すると、ガスは空気よりも重たいので漏れると下へたまります。そのためガス漏れ警報機は床に近いところに設置します。しかし、液体のガスは水よりも軽いため、ガスボンベは水に浮きます。また麻酔性はありますが毒性はありませんので、自殺はできません。

陶芸のガス窯の話に戻ると、よく都市ガスの窯は、という問い合わせがありましたがわたしがいた会社では造っていませんでしたので詳しく判りません。ただ、配管がかなり特殊になるのと、都市ガスというものが全国で十数種類のブレンドが存在するため、そういうのが陶芸窯であまり採用しない理由なのかなあ、と個人的には思っています。地下の配管からの都市ガス工事よりも、直接ボンベからの短距離配管のほうが安くすむのかもしれません。機会があれば調べてみます。都市ガスの窯の経験のある方は教えてください。

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2008年08月12日

中古の陶芸窯


個展の会期中に、窯に関していくつか相談のようなことも受けました。

そのなかでも、わたしの生涯学習センターの受講生の方の友人の、中古の窯のことを書いておきたいと思います。

その方は持ち主が亡くなって、使われずに置きっぱなしになっていた、中古の窯をいただいたそうです。
直炎式のガス窯で、バーナーは下に一本、温度計に熱電対も一緒にもらったそうですが、温度計で高い温度を示していても、窯を開けると煤さえきれていないような生焼けになってしまう、ということでした。(ということは部分的に600℃以下です。昔の楽焼窯の可能性も?)

ガスボンベからバーナーまで、どんな装置がついているのか、紙に図を描きながら聞いてみました。すると相当古いタイプの調整器がついているようで、操作方法がどうも難しいようです。わたしも聞いていて、なんとなくはわかりましたが、多分、そういう装置を使ったことはありません。

一度その窯を造ったメーカーなのか、売った人なのか判らない人に、窯場に来てもらった時は操作できたそうですが、それ以後一人では、まったくうまく窯が焚けない、ということでした。

まだ現物を見に行っていませんが、少なくともこの話を聞いただけで、その窯をあつかった業者の質というか、仕事へのスタンスが垣間見えます。わざわざ出向いて、なぜ焚けるようにしてやらなかったのでしょうか。(たぶんお金も取ったでしょうし)

個展会場で、わたしは窯を見ていないからわかりませんが、とお断りした上で、ボンベから直接バーナーへ繋ぐ場合のいろいろな方式と、現状からの改造でかかる費用の大まかな値段を提示しました。その方は、「そんな値段でできるならすぐにでもお願いしたいぐらい」と言われました。

焚けない窯が家にあるぐらいストレスのかかることもないでしょう。
しかし、アマチュア作陶家の、窯にかかわるこうした話は、福岡に帰ってきてからだけでも、かなり耳にしました。

どうして、その中古の窯に関わった業者やガス販売店は、少し調べれば判ることなのに、なにもしなかったのでしょうか。なぜ、費用はかかるけれど、劇的に改善する方法があるという提案をしなかったのでしょうか。それができれば多少の商売にもなって、信頼もされたでしょう。

不景気で、アマチュアにも売りつけるようになったのならば、もっと企業としてサービス業の部分を意識すべきです。それができないのならば、プロにだけ売ればいい。

やったこともない。焚いたこともない。できないからといって、勉強する気もないなんて、なんでその仕事を選んだのか、わたしは不思議で仕方がありません。

陶芸窯という、十数万から数百万の買い物をするとき、使い方は教えてもらわなくても結構です、と言える方がどれだけいるのでしょうか。わたしは築炉メーカーに勤務していましたが、とても経験のない窯には言えません。

わたしの考え方は生真面目すぎるのでしょうか。
しかし、わからないことを、そのままにしないのが、プロではないでしょうか。

瀬戸で鍛えてくださった築炉メーカーの社長は、もっと徹底した考えを貫き通していました。絵具屋さんも、製土業の方々も、問屋さんでも、そういう方々がたくさんいらっしゃいます。瀬戸だけではなく、日本中の産地にそういう人がまだまだ頑張っています。

中古の窯は安いでしょうし、手軽かもしれません。
しかし、どうか焚けない人から買わないように、十分に注意してください。

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2008年08月03日

窯出し


先日の最後の窯を、さきほど窯出ししました。

う〜ん、成功ですね。最近はそんなにひどい失敗をしなくなりました。
わたしは還元をかけて織部を焼くので、いつも安定感にかけています。ですから、かなりリスクの高い焼成をしているのかもしれません。

それから、急須の蓋。あれだけ注意してアルミナを塗ったりするのに、やはり2,3個蓋のせいでペケになってしまいます。残念。

わたしは仕事として長期間食器つくりをしたことはないので、窯元で修行した人にくらべると、よく変な失敗をします(あげればキリがありません)。それでも、お手本がないぶん、自分なりに創意工夫をしていくので、かえって良いのかもしれません。
などと、そんなこと言うとおこがましいですが、そう思うようにしています。

実は過去数回の窯、同時進行でかなり大きな、陶板のような作品もつくっていたのですが、どうしても割れ、キレがでてしまいました。残念ながら、今年の個展では出せません。新しい試みは、こうしてすこしづつ繰り返していくしかありませんね。

今日は久しぶりに早く寝て、明日よめさんと二人で梱包や準備に追われると思います。

もう月曜日にはギャラリーで搬入、設営をしているのかと思うと、すこしゾッとします。
それでも、個展にむけての窯も焚いてしまったし、いまさらどうしようもないので、あとは淡々と準備作業をするばかりです。

正直言うと気が楽になってきました。

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2008年06月07日

ガス窯をつくる 3



今回はレンガについてです。



陶芸窯に使用されるレンガは大きく分けると2種類あります。耐火レンガと耐火断熱レンガです。

露天で使用される、登り窯や穴窯に用いるのが耐火レンガで、多くの人が目にしたことがあると思います。重たくて、カチカチです。機械を使用しないと切断できません。手でやる場合はメキリという道具で割る、という感じです。硬いので、当然物理的に強いですから、薪が当たっても大丈夫なんですね。また熱しにくく、冷めにくいです。


ガス窯などで使用されているのはほとんどが耐火断熱レンガです。棚板の下、煙道の上は耐火レンガの1丁半などが使用されています。重量にたいする強度が、断熱レンガではとれないからです。ただ、断熱性能は耐火レンガの比ではありません。あとで説明しますが、1800度を超える温度に耐えるレンガもあります(硬いんですよこれが)。


耐火断熱レンガは、非常に軽くて、ノコギリで切れます。普通のノコギリではすぐに刃がダメになりますから、専用のレンガノコを使います。築炉メーカーの時に現場ではいつもレンガ師の手元として言われた寸法にレンガを切っていました。初めてレンガをノコで切るのを見たときには、とてもびっくりしたのを今でもおぼえています。


これらのレンガ、一体どれぐらい種類があるかご存知でしょうか。


わたしが働いていた会社でも、耐火レンガ3種類、耐火断熱レンガを10種類以上使い分けていました。

数社あるメーカー全てがおおよそ、30種類以上の製品をもっているはずです。そのうち、最高使用温度が近い品番(1200〜1600℃)のレンガを見分けるのは素人には不可能、と言っておきましょう。全部白いだけです。もちろん、品番で値段は全然違います。新規に窯を造ろうとされている方、いい加減なメーカーに当たってしまい、しかも値段の交渉をしすぎると番数下げられるかもしれませんよ、と脅かしておきましょう。


わたしは、かつて在籍した会社の代理店のような形で陶芸窯を販売していますが、実際メーカーは値段ギリギリでがんばっています。卸値を聞かされてびっくりしましたから。そもそも日本で日本人が手仕事をしているわけですから、安くできるはずはないんですね。値段を交渉するよりも、いま用意できる金額はこれだけです、と素直に話して相談したほうがいいのではないかと思います。ほとんどの会社は数パーセントしか値引きの幅がないと思います。それ以前に、陶芸窯は値引きをするような商品ではないと思います。

この数年はレンガの値段が上がり続けています。レンガ自体が窯業製品ですから、燃料代の高騰、運搬費の増加で、去年は1年で5回以上も値段が上がりました。それでも、ギリギリまで値上げをしないでがんばった会社の方が多かった、ということをおぼえておいてください。

ガス窯を造っている、それぞれのメーカーの違いはなんでしょうか。


わたしがいた会社のように、社長がもともと工業炉の焼成担当をしていた、という例は少ないと思います。多くは工業炉メーカーから陶芸窯部門が独立していったような会社が多いのではないかと思います。
一般の人が判断するべきは、窯を売る側の人間が、その窯を焚けるのか、ということにつきます。ただ火を点けられるということではなく、陶芸家の焼成に関する質問に、答えることができるのかということです。そうした会社は、わたしがいた会社だけではなく、いくつか存在します。


当たり前だと思っていたこういう考え方も、最近では少数派だそうです。
わたしみたいなハンパなキャリアの人間でも真面目で立派なほうならば、ものづくり大国ニッポンは、相当きわどいところにいるのではないでしょうか。





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2008年06月04日

素焼きについて


木曜日の講座で、今年度はじめての素焼きをすることになりました。

ちょうど昨日から風邪をひいてしまい、今日はいろいろとプリントを作製していました。講座で配って、説明し、窯詰めの手順などは、実地でやっていくつもりです。陶芸教室では、どうしても、同じ人が窯当番になる傾向があり、わたしの講座ではグループごとに、持ち回りで全員に経験してもらうことにしています。



素焼きについて

やきもの作りの最終的な目標は物理的に堅牢な作品を得ることにあります。そのために人類は長い時間をかけて窯業を発展させてきました。無釉の土器や須恵器からはじまり、施釉陶器、高火度磁器、ファインセラミックスなどへ発展してきました。

わたしたちはこの講座で施釉陶器をおもに作っていきます。実習で、成形、乾燥工程をおえた作品を、800℃前後で素焼きします。素焼きの後、さらに釉薬をかけて、もう一度窯に入れ、1200℃以上で本焼して完成とします。

しかし、どうして素焼きをするのでしょうか。その第一の理由は、生素地よりもかたく、多孔質の素地にして、絵付けや施釉をしやすくするためです。また粘土にふくれる有機物を燃やし、蒸気やガスを素地から十分にぬいて、釉薬に悪影響が出ないようにします。

成形工程で、だんだん粘土が乾いていくときに失われる水分を、自由水(吸着水)と陶芸の世界では呼んでいます。(化学的正確さではなく、わかりやすさを基準に説明していきます)この自由水は文字通り、乾燥段階では蒸発したり、霧吹きで水をかけたときに素地に入ってやわらかさを保ったり、粘土に自由に出入りする水分のことです。完全に乾燥した作品も水につけていると溶けてくずれてしまいますが、それを練り直せばもとの粘土に戻ってしまいます。この自由水を上手にコントロールすることが成形段階で大事なことです。

この自由水は、実はいくら乾燥させたとしても、完全に素地から取り除くことはできません。それどころか、窯に入れたとして150〜200℃ぐらいまで素地の中に存在しています。これは粘土自体の熱伝導率が小さく、温度計で差している温度と、素地の芯の部分とでは相当な温度差があるためです。乾燥が不十分な厚い素地で、この温度域をあまり早く昇温させると、水蒸気爆発のために、文字通り爆発するように割れてしまいます。

素地には、この自由水とは別に、もう一つの水分が存在します。それが結晶水です。これは水の姿ではなく、粘土鉱物の水酸基として存在しています。熱をかけることによって、この結晶水が、およそ400〜650℃の温度域(粘土の種類で前後する)で放出されます。こうして素地のなかから、自由水と結晶水がいなくなってしまったとき、粘土はやきもの(この段階では土器)になっているのです。結晶水を放出したかどうかが、粘土とやきものの差ということもできると思います。それはおよそ650℃以上、そして前述の素地の温度差を考慮し、一般的に素焼きは750〜850℃で7〜10時間、十分に時間をかけて行うのです。





もっと細かい説明をしてもいいかな、とも考えましたが、とにかく一枚に収まることを目標にしてみました。わたし自身、たいした経歴もないのでなかなか文章がまとまりません。あとは現場で実践するしかないでしょうね。この講座は受講生が窯詰め、窯出しもできるので、今後もこういうかんたんな理論を伝えていこうと思っています。




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2008年05月30日

ガス窯をつくる 2


今回はフレームについてです。

ガス窯、電気窯、灯油窯などは、鉄製のフレームの中にレンガを積んでいきます。
フレームには直接火があたるわけではありませんので、一見関係ないように見えますが、実は大有りです。窯の内部は、1200度以上に温度が上昇するわけですから、その熱で窯全体がかなり膨張します。そして、膨張した窯は冷却時に収縮します。 小型の窯でも、レンガ数百キロを使用していますから、その力はバカにできません。それが窯焚きの度に繰り返されます。そして、痕跡はその窯のもっとも弱いところに現れます。たとえばレンガの壁にヒビができる、などです。(レンガの積み方にもよりますが)

また耐用年数を考えなくてはいけません。
長く使い続けた窯はどうなるでしょうか。ガス窯などは、レンガを崩して、もう一度積みなおします。製陶所によっては10年未満でレンガの張替えをします。つまり、フレームはレンガの寿命の何倍も、もたなくてはいけません。

わたしが在籍していた築炉メーカーでは、場所によって鉄板の厚み、アングルの厚みを変えていました。色見穴があるところや、重量を受けているところは厚い鉄板を使う。また力のかかる所にはたくさんアングルの補強を入れる。普通に考えればわかることです。ところが、やらないメーカーもたくさんあります。窯で発生する熱い蒸気は鉄を腐食していきます。ペラペラのボソボソになった鉄板を何度も見てきました。いい加減な仕事は必ず露呈します。

・・・それでもやらないメーカーがありした。

なぜか。

安く価格を設定して、たくさん売りたいからです。

なぜか。

買う人が、窯の良し悪しを判断できないからです。

なぜか。

造る側がつたえていなかったからです。

なぜか。

かつては、つたえなくてもいいプロしか窯を買わなかったからです。


わたしは瀬戸で見聞きした、一部の事情しか知りませんが、昔はそうとうな数のレンガ師、築炉屋がいました。たくさん仕事もあったそうです。1丁積んだら幾ら、という世界だったそうです。

やがてバブルも終焉を迎え、景気は悪くなりました。窯は設備です。車と同じです。お金がなくなれば、買い控えをします。修理もいい加減になってきます。だんだん仕事がなくなっていきます。わたしはそうしたレンガ師と仕事をした最後の世代の一人かもしれません。そうしたレンガ師たちは全国各地で仕事をしていかなければ立ち行かなくなってきています。





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2008年05月21日

ガス窯をつくる 1

陶芸窯を製作する会社で働いていました。
辞職したのは、いまからもう4,5年も前のことです。愛知県瀬戸市の訓練校を修了し、そのメーカーに約6年勤務しましたから10年前のはなしです。その築炉メーカーは、ガス窯を中心に製作している家族経営の会社でした。

当時、「なんでそんな仕事を選んだの?」と聞かれることがよくありました。陶芸家になるべく、全国から集まった訓練校の生徒からすれば、作業着を着てペンキ塗りや溶接ばかりをするわたしの姿をみて、不思議だったのかもしれません。しかし、わたしの理由は単純です。お金です。給料という意味もありますが、ガス窯の値段を聞いて(150〜200万円:サイズによります)、これは買うお金を貯めるよりも、窯のことを勉強しながら造れるようになったほうが早いと思ったからです(変ですか?)。それに、溶接の資格は持っていましたが(専攻が彫刻でしたので)ほとんどやったこともなく、上手くなりたいとも思っていました。

また、入校前に職人系の仕事をしていましたから、自分が製陶所に入れば、何をやらされて、どういう精神状態を変遷するか半分わかっていました。訓練校よりも作業が単調になり、多分つまらないだろうな(自分にとって)と思いました。また当時27,8のわたしからすれば製陶所の給料は安すぎました。それでも同期のほとんどは手作りができるような仕事場を探していたようですが、ハンパな知識と技術しかないものに誰が高い金をだすでしょうか。

弟子になればお金は数万もらえるぐらい(なしとかもあります)、他にアルバイトをしなければなりません。製陶所への就職を選べばなんとか食べれるぐらいの給料はもらえたようです。しかし、ロクロで手作りしているようなところは瀬戸とはいえ、限られていました。

のちにいろんな人に知り合うようになってわかりましたが、5,6年辛抱して、しっかりとした技術を身につければ、作家活動をしながら素地だけロクロでつくる仕事などでそこそこ稼いでいけたようです。

ところが、この5,6年が辛抱できないんですね。なぜかみんな(実は当時のわたしも)3,4年働いたら独立して、みたいなことを考えるんです。それどころか3年以内でほとんどの人が辞めてしまいます。わたしも築炉屋の社長に、「まあ今までのヤツはもって2年ぐらいよ。」と言われていました。実際まったく最初は期待していなかったようです。なんとか根性を見せて、なんとか一人で窯が造れるようにはなりました。

3年で辞めるのは、製陶所の社長に言わせれば、一番おろかな辞め方だそうです。仕事の段取りもわかって、腰も据わって、いよいよコイツにも、いろんな仕事をやらせようか、という時に辞めてしまう。業界になんの人脈もできていない(友達の友達は人脈ではありません)。そしてさらに数年したらもう陶芸自体を辞めている。そんな人が多すぎる。製陶所の社長さんたちに話を聞くと、そういう生徒よりもそのへんの奥さんをパートで雇ったほうがいい、と言っていました。辞めないし、素直に言ったことをやるからだそうです。

さて、話を窯造りにもどします。
わたしが最初にやったのはペンキ塗りと煙突造りです。ペンキ塗りはわかると思いますが、煙突はどうやってつくるかご紹介しましょう。まず1.6ミリ厚の鉄板を切断して、ローラーで曲げます。それから固定して溶接で仮付けし、パイプ状の鉄板を必要な数つくります。6ミリのフランジを取り付け、先頭の傘、窯につける3.2ミリ厚のベース板などを仮づけします。さきに組んでおくのは溶接で歪むためです。溶接する部分によって鉄板の厚さが違いますから、溶接機を調整しながら、本付けします。それができたらメッキ屋さんに運んでアルミニウムメッキをしてもらって完成です。

こう書くとなんということはありませんが、苦もなくできるようになるまで1年以上かかりました。ローラーで思い通りのパイプを曲げるのもコツがありますし、1.6ミリの鉄板同士の溶接はちょっとヘタをすると穴が開いてしまします。フランジの部分は、薄い本体と厚いフランジを溶接しなければなりません。やっているうちに溶接のコツがみにつきます。新入社員の最初の仕事としては最適な仕事でした。また溶接のビートが汚くても、メッキしてしまうので判らなくなります。それができるようになったら、次は曲がりの煙突を実際に展開図をおこして造るなど、いろいろと応用編があります。



興味のない方にはなんのことかわからない話ですが、次回は窯のフレームの話の予定です。


<追記>


よく電気窯などに付随する還元用の煙突で、既製品のストーブの煙突みたいなものを採用している会社があります。しかし、ガス窯や灯油窯でこのような煙突をつかってはいけません。薄すぎます。必ずアルミニウムメッキをしている煙突の窯、それを採用している会社を選んでください。

こちらの記事も参考にしていただければ幸いです。

 

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2008年05月14日

素焼きが怖い


独立してから、なぜだか素焼きをするのがとても怖いです。

土がやきものに変化するのは、結晶水がぬけた段階からです。それはだいたい400℃前後のようで、その温度をこえた粘土はもう水にとけることはありません。

やわらかい粘土が固くなるときに失われる水分のことを、結晶水に対して自由水と陶芸の世界ではいいます。結晶水とは粘土が完全に乾燥しても、残っている水のことで、焼かなければとれません。また自由水も100℃を越えても素地にのこっていることがあり、200℃ぐらいで窯の中で乾燥不十分な素地がハゼたりします。これは素地表面が200℃になったころ、ようやく芯の部分の温度が100℃をこえるからのようです。

どうして素焼きがこわくなったのか考えてみると、もうそこに生活がかかっているわけですから、絶対に失敗できない、という気持ちがあるのだと思います。素焼きで失敗したら、なんだか情けないような感じもします。

では、本焼が怖くないのか、というとやはり怖いわけですが、本焼はもう最終段階ですから、覚悟がきまっているというか、ここで失敗してもしかたないな、みたいな気持ちになるのです。もう十分戦った、みたいな心持ちでしょうか。開き直っているのでしょう。

とくに、大物や素地の厚いもの、また複雑な形状のものや長皿など、経験上素焼きでダメになることがたまにあります。

そこで、です。

このごろ知ったのですが、先程も書いたように薄い素地でも、表面と芯の部分ではそうとう温度の開きがあるようなのです。これは、素地の多孔質によるものですね。特に素地があつかったり、大物である場合、いくらゆっくり昇温しても、このギャップを埋めるのは難しいようです。そのためにハゼたり、ヒビが入ってしまうこともあります。

ではどうすればいいのか。

最近の素焼きは大物や厚いものがあるため、こんな方法をとっています。まず、一度ゆっくり200℃ぐらいまであげて、火を止めます。それから数時間放置します。この間に素地全体が同じ温度に落ち着くはず、と考えています。それから、もう一度焚き始めるのです。場合によっては、前日におこなって、次の日から焚くことにしています。いまのところ、これで厚いものでも、失敗していません。ガス代にも、そこまで大きな影響はでません。
なんだか怖いな、というときにおすすめです。

これが正しいと言っているわけではありませんが、なにかの参考になればと思いました。
こんなことをふと思いついたのも、窯屋時代に、お客さんの作家さんが似たようなことを言っていたのを思い出したからでした。




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2008年03月17日

窯の選び方 ガス窯


わたしは6年弱築炉メーカーに勤務していました。その間に百数十基の窯の修理、新築工事に関わったと思います(9割以上がガス窯)。また、自身の作陶もガス窯でおこなっており、他の窯の説明とは明らかに記述に偏りがあると思いますが、ご容赦ください。

まちがいなく、あなたがお持ちの食器のほとんどは、ガス窯で焼かれているだろうと思います。製陶所の窯のほとんどは、京都などを除いて、ガス窯だからです。

ガス窯の特徴は、大型化しやすいということもあげられるでしょう。電気炉の輻射熱では届く距離に限界がありますし、灯油窯では複数のバーナーを管理するのが難しいからです。

ガス窯の場合、窯の周囲にめぐらされた配管に、複数のバーナーが並列についています。そして炉周りからボンベへ延びていく配管に調整器がついています。この調整器のハンドルを回せば、理論上、バーナーが何本でも同じようにガス圧が変化します。ここが灯油窯との大きな違いでしょう。大型工業炉では温度計とダンパー、調整器を連動させる自動制御を可能にしています。

また燃料のガス(プロパン・ブタン)は圧縮してボンベに詰めてありますから、燃料の運搬・管理が楽です(ガスはどんなにボンベが大きくなっても中の圧力は同じ。怖くありませんよ)。
そして何より最初から気体ですから燃焼効率がとてもよいのです。


窯で大事なことは、効率よく安定した焼成ができるということです。しかし、それは適正な設計と焼成が組み合わさったときの話。

灯油窯やガス窯は炎があるわけですから、その炎の流れが悪い、俗に燃焼室から煙突への「引きが悪い」窯もあります。

その原因もいろいろですが、たとえば煙突が90度に曲がっているとか、火袋という余分な(まあ余分じゃないけど)スペースが焼成室にほとんどないとか・・・

メーカーじゃないところが設置したためにいい加減な煙突工事になっていた窯もみたことがあります。理屈じゃないですね、この辺は。設計した人や工事した人の経験値ですね。


それから、電気窯以外は、灯油、ガスの順番にメンテナンスが楽です。


電気窯は線の寿命がどうしてもあるし、ポカやると一発で線にネジレがでたり、切れたりします。

ガスのバーナーは壊れるところはありません。バーナーヘッドを割ることはたまにありますが、10年20年使い続けることも多いのです。

製陶所は、最低でも一日おきに窯を焚いています。そういうところで10年以上、ほぼメンテナンスフリー。

10年ぐらいたったころにメンテナンスとして、バーナーノズルの洗浄、扉の石綿(便宜上そう呼んでいるだけで無害です)交換ぐらいでしょうね。

短所は、自治体の条例などで、設置できないところがあるということ。

電気窯に比べて作業スペースが広く必要だということ。

扉を開けて窯詰めするスペースに、左右のバーナーに点火、後ろのダンパーなどの操作など、0.2m3の窯でも最低6畳ぐらいのスペースは必要です。

それからどんな窯でも、その焼成のためには、多少の理屈とテクニックはおぼえないといけません。まあ楽しいですけどね。

また、灯油もガス窯も煙突の設置が必要です。屋根か壁に穴を開けないといけません。学校などのビルの1階に設置するときはどうするか?2階がある鉄筋コンクリートでは横から出すことができます。しかし、だからといって安直に90度に煙突を曲げることはできません。なぜなら煙突への引きが悪くなり、コントロールしにくい窯になってしまうからです。焚けないといったほうがいいかもしれません(しかしこういう工事をする会社はたくさんあります)。

築炉屋時代、設置場所に合わせて、ひたすら煙突を鉄板から曲げてつくってきたので、煙突にはうるさいです・・・・。

それから、高温の蒸気を窯焚きのたびに浴びる陶芸窯の煙突。最低1.6ミリの鉄板を使用して(いわゆるテンロク)、アルミニウムメッキ処理が基本です。既製品の煙突(ホームセンターにも売っています)では、まず持ちません。断言しますがそういう会社のものを買うのはお勧めできません。

そういう細部に、メーカーの思想が出てしまいます。そういうメーカーは、レンガの番数もギリギリのものを使ったり、アフターサービスが悪いものです。

築炉屋というのは窯を造るプロですが、陶芸のことはしらない人の方が多いものです。一般の人は焼成指導をうけるべきであり、そういうノウハウがあるメーカーを探すべきです。

わたしは相談を受ける時にいつも言ってます。

 
「焚けない人から買って大丈夫ですか?」



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窯の選び方 灯油窯

電気窯の次は灯油窯について。

実は灯油窯は、いままで2基しか造ったことがありません。
私自身の印象としては、笠間とか益子とか、九州に結構多いような気がします。最近思ったのですが、北九州の製鉄など、工業炉がルーツの会社があったりするのかな、と推理しています。

では灯油窯の特徴。
長所としては、燃料代が安いということ。(そうも言えなくなってきましたね)

それからほかには、予期せぬものが、焼きあがる可能性が、ガス窯よりはある、という感じでしょうか。逆に炉内雰囲気が揃いにくいということです。(これはある部分では長所ですね)とくにバーナーが複数の場合は揃いません。T字型の二股バーナーでも右が強くて左が弱いということが起こりえます。これは残念ながら液体燃料の宿命ですね。

複数バーナーの灯油窯(つまりある程度の容積の窯)の炉内雰囲気が揃いにくいもう一つの理由は、灯油バーナーが大きすぎるということです。

ガス窯ならバーナーが6本の窯でも、灯油バーナーなら焚き口が2ヶ所です。小さな炎が壁の隅々まで並んでいるのと、大きな炎が一つある状態の差かな。


またバーナーの送風の音がうるさいです。こればっかりはちっとも昔から進化しませんね。また、バーナーの点火などでトラブるとかなり面倒くさいことになるそうです。

・・・韓国映画のチングかなにかで、火葬場のシーンに見慣れた灯油バーナーが出てきたので、ちょっとビックリしたことがあります。

その後調べたら、灯油バーナー自体が、ゴミ焼却場、火葬場などでの使用がほとんどということがわかりました。てっきり陶芸用に開発されたのだとばかり思っていましたからおどろきました。それでシビアな火力調整を、メーカー自体が考えていないのかもしれません。

まあ、この辺の話はわたしの経験によるところが大きく、実際灯油窯は2基しか造っていないので、それは違うよ、という方は是非教えてください。

灯油窯ではなく、灯油バーナーだけなら、わたしも欲しいと思っています。
簡易窯とか、野焼き、楽焼、薪窯のあぶりとか。使い道はたくさんありそうですね。


灯油窯は、燃料も安いですが、窯本体も少し安いです。
これはわたしがいた会社だけではないと思います。おそらく、同じ容積のガス窯の燃焼装置と比較したらバーナーが安いのではないでしょうか。


慣れている方は灯油じゃないと、という人も多いみたいです。 また、電気と違って灯油・ガスは築炉屋さんの設計の良し悪しが影響してきますので、いろいろと情報を集めることをお勧めします。

単純に、その会社のカタログで、灯油窯が他の燃料の窯よりも先に(できれば表紙)、そして種類も多くラインアップされていれば、その会社は灯油窯が得意ということです。

また、同じ窯を、いろんな会社が、いろんな名前や値段で売っていますから、その辺もよく見ることです。必ず作ったメーカーから直接購入することをお勧めします。

自分が灯油窯を造るなら、ということを考えました。たぶん、よくある完全倒炎式の窯ではなくて、いってこい式とか、あえて、炉内雰囲気が揃わない構造の窯にすると思います。量産ではなく、一点モノを狙う感じです。

また、耐火断熱レンガではなく、耐火レンガで窯を組んで、薪を併用するとか、ガンガン塩をぶち込むとか、ちょっとラディカルな窯が面白そうです。やってみたいですね。


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2008年03月14日

窯の選び方 電気炉


窯の購入を考えている方のために、それぞれの窯の特徴を書いていきます。

まずは電気窯について。
陶芸における電気炉、電気窯とは窯の熱源を電気から得るものをいいます。


発熱体であるニクロム線やカンタル線などに通電して発熱させ、その輻射熱をもって製品を焼成します。そのため大型化していくと細長くなる傾向にあり
ます。輻射熱が窯の中心部に届きにくいためです。炎の対流はありませんから煙突はありません。しかし発生する蒸気は排気せねばならず、上蓋式の窯が多いのもそのためです。


電気窯は明らかに酸化焼成主体の窯です。
還元焼成する場合、ガスバーナーで炎を入れるか、何か還元剤となるものを炉内に入れます(酸化と還元についてはいづれ書きます)。炎によるではなく、輻射熱の窯ですから、酸化でもガス窯などの酸化とは作品のマチエールが微妙に違います。

わたし自身はガス窯で仕事をしていますが、メーカーの100Vと自作ニクロム線テスト窯の2つを持っています。主にテストに使っています。

現在の電気窯の特徴は、なんといってもコンピューター制御でしょう。単純なものでも、最高温度の設定、保持時間ぐらいは入力できますし、ある温度まで、ある時間をかけて昇温する、を1ステップとして4〜8ステップの2〜10パターンを記憶するものなどが主流になってきています。

こうした自動制御によって、何回でも同じパターンで焚くことができます
同じことがどの程度できるかということを再現性といったりしますが、陶芸窯
のなかで電気炉の再現性にかなうものはありません。

また他の燃料の窯ではとうてい不可能な焼成グラフをえがくこともできます。
たとえば、除冷中に1100℃で3時間キープするとか、1250℃から950℃まで10時間かけて下げるなど。他の燃料では不可能に近いか、徹夜を
余儀なくされることです。しかし電気窯は、スイッチを入れれば寝ていてもいい。これはすごいことです。


それから重要なのは、都心でも設置可能ということです。ビルにある文化サークルや、公共施設にも設置できます。陶芸窯の設置には消防の条例などで、ガス、灯油、特に薪窯を置けない地域が、結構ありますので購入を検討されている方は確認しておくことをお勧めします。

また電気窯は比較的小型にすることが可能です。
この10年ぐらいで家庭用電源の電気炉は驚くほど進歩しました。これは趣味で陶芸をする人たちが増えたこと、そして窯業界自体の不景気により、築炉メーカーの多くが、ようやくアマチュアをお客としてみるようになったということが大きいと思います。(これは築炉メーカーにいたわたしの実感です)


とにかく10年前に比べるとはるかに良い100Vの電気炉ができています。

現在の有効容積(炉内寸法より小さくなる)は25センチ立法ぐらいのようです。

100Vの電気炉が安くて便利だとはいえ、セミプロやプロのひとはやはり200Vにするしかないでしょう。小さいものが数個しか焼けないのでは生産性が低すぎるからです。
家庭においては、200Vにするかどうかは、基本料金など、いろいろ悩むところでしょう。その辺は単相200Vにするとか、いろいろとメーカーや電
力会社と相談してみてください。


輻射熱で完全に酸化反応がおこるということを長所にすれば、上絵や金彩などは電気が一番いいと思います。


あまり頻繁に還元焼成を繰り返すと、発熱体であるカンタル線などの寿命は短くなります。また、新品の窯でも温度の設定を間違えたり、線に釉薬などをつけたりすると線が切れることがあります(最近では線の交換を部分的に簡単にできる窯もあるようです)。


それから、電気窯に関してはいいかげんな話をよく聞くことがあります。誤解のないように最初にいいますが、コンピューター制御の電気窯は最先端の陶芸窯です。すごく便利です。ですが、電気窯を取り巻く環境や陶芸家は最先端についていっていません。


たとえば、釉薬。
いま世間の陶芸教室が使用している釉薬は、ほとんど伝統釉薬の調合にもとづいたもののはずです。本当に電気窯の本領を発揮する釉薬を使用しているところ
がどれだけあるでしょうか。


たとえば、昔の織部の調合。


長石50
灰50
酸化銅4

(このレシピは適当です)

これでよかったんです。

これで十分素晴らしいものができました。なぜなら、土も天然、灰も天然ですし、窯も露地に築いた薪の窯だったからです。

また昔の人は、事細かな釉薬
の調合をすることはなかった。1対1とかもけっこういい加減な感じだったんです。仮に厳密に調合する人がいても、原料自体が天然ですからばらつきがあるです

現在、幸か不幸か、原料の不確定要素が減ってきています。セラミックの世界のおこぼれとして、世界中から輸入された原料が陶芸の世界で使用されています。
そして焼きに関しての不確定要素も、電気炉酸化焼成はほぼゼロです。つまり電気窯で酸化焼成した場合、非常に安定した仕事になっていきます。


これは裏を返せば、制作者がキチンとわかってないと全然いいものはできないということです。しかしそれは電気窯の責任ではないですよね。


なぜこの釉薬はこういう調合なのか。
なぜその温度が最高温度なのか。
なぜここからその温度までその時間をかけるのか。

とっつきやすくて使いやすいけど、突き詰めていったさきにはこういう壁があります(もちろんこれは電気窯だけではありませんが)。


極端な例を出せば、どこかの産地で、先代から息子に代替わりして電気窯を導入したりする。わたしのような人間には一発で見破られます。釉薬の調合が先代の薪窯用と同じだからです。雰囲気もなんにもないピッカピカの仕上がりです。

そしてこういうものを見たり、前と同じように焼けなかった人たちが、いまこのときも電気窯を馬鹿にしています。それは「私は窯も釉薬もわかってません」と自ら宣言しているのと同じなのです。そして残念ながら薪窯で焚いている人にこういう傾向が非常に強いです。

極端な例を出しましたが、つまり、電気窯による作陶では、酸化の釉薬を使うか、結晶釉など複雑な焼成を必要とするものを焼くとか、スイッチひとつですむだけに、その人にどれだけ陶芸頭があるかが問われます。



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