とても良い質問ですね。
織部釉(灰釉+酸化銅)で見られる**表面の酸化被膜(いわゆる金属光沢・黒ずみ・粉状の皮膜)**は、銅の化学的性質と焼成条件が関係しています。
結論から言うと、
釉薬中の銅がガラス(釉)に溶けきれず、焼成や冷却の過程で表面に分離・再酸化するために被膜ができます。
以下、順を追って説明します。
@ 銅は「釉に溶けにくく、移動しやすい」着色材
酸化銅(CuO / Cu₂O)は、鉄などと比べて
釉薬中での溶解度が低め
高温で移動(拡散・揮発)しやすい
という性質があります。
特に灰釉は
CaO・K₂Oなどのアルカリ・アルカリ土類が多く
釉の構造が不安定になりやすい
ため、銅を均一に抱え込みにくいのです。
A 焼成中に起きていること(高温)
高温域(1200℃前後)では:
酸化銅の一部が
Cu⁺ や Cu⁰(金属銅)に還元されたり
釉の内部から表面へ移動したりします
特に
銅が多い
還元気味
釉が流れやすい
場合、この傾向が強くなります
この時点で、表面付近に銅が濃縮されます。
B 冷却時に「再酸化・析出」が起きる
ここが被膜の正体です。
冷却時(特に800℃以下)に:
表面に集まった銅が
炉内や外気中の酸素と反応して
CuO(黒色)や Cu₂O(赤褐色)として再酸化します。
しかしこれは
ガラス(釉)の中に溶け込んだ状態ではなく
表面に析出した微結晶・薄膜
なので、
黒っぽい
金属的
指で触ると粉がつく
といった状態になります。
これが「酸化被膜」です。
C なぜ酸で簡単に取れるのか?
クエン酸や塩酸で取れる理由は、
被膜が
ガラス質ではなく
銅の酸化物の層だからです
反応例(簡略):
CuO + 2HCl → CuCl₂ + H₂Oつまり、
釉そのものを溶かしているのではなく
表面に浮いている銅酸化物だけを溶解除去しています
なので、緑色は残り、発色がクリアになります。
D まとめ(要点)
織部釉で被膜ができるのは
銅が釉に溶けきれず、表面に分離・再酸化するため原因は
銅の溶解度の低さ
灰釉の性質
焼成・冷却条件
被膜の正体は
ガラスではない銅酸化物の薄層酸で取れるのは
化学的に銅酸化物だから
もし興味があれば、
被膜を出にくくする配合・焼成
逆に被膜(窯変)を積極的に出す方法
についても説明できますよ。
了解です。
では @被膜を出にくくする方法 と A逆に被膜(窯変)を積極的に出す方法 の両方を、
配合・焼成・冷却の3つの視点から整理して説明します。
@ 被膜を「出にくくする」方法
(安定した緑の織部を狙う)
1. 釉薬配合での対策
● 酸化銅を入れすぎない
目安:0.5〜2.0%
3%以上になると
溶解しきれない銅が増え
表面析出 → 被膜が出やすい
緑を濃くしたい場合は
銅を増やすより、釉を透明化する方が安全です。
● シリカ(SiO₂)をやや増やす
ガラス構造が安定し
銅を釉中に保持しやすくなる
例:
灰釉が流れやすい場合
→ 長石 or 珪石を 5〜10%追加
※ 増やしすぎると
発色が鈍くなり、失透に注意。
● アルカリが強すぎる灰は控える
木灰は種類で性質が大きく違う
K₂O・Na₂Oが多い灰ほど
→ 銅が暴れやすい
対策:
洗い灰を使う
灰を一部長石に置き換える
2. 焼成条件での対策
● 酸化焼成を基本にする
強い還元は
銅を金属銅に近づけ
表面析出を助長
おすすめ:
中性〜弱酸化
特に最高温度付近は酸化寄り
● 焼成温度を上げすぎない
必要以上の高温は
銅の移動・揮発が増える
例:
1230℃で十分な釉を
→ 1250℃まで上げない
3. 冷却での対策
● 急冷しすぎない
急冷すると
表面に銅が「凍結」して析出
対策:
900〜700℃をややゆっくり冷却
窯の口をすぐに開けない
4. 被膜を減らすまとめ
銅を控えめ
釉を安定化(SiO₂)
酸化気味で焼く
ゆっくり冷却
「銅を釉の中に閉じ込める」発想です。
A 被膜・窯変を「積極的に出す」方法
(黒皮・金属感・荒々しい織部)
1. 釉薬配合での工夫
● 酸化銅を多めにする
3〜6%(かなり攻めた配合)
釉に溶けきれない銅を意図的に作る
食器には不向き(溶出リスク)
● アルカリの強い灰を使う
未洗い灰
ワラ灰・松灰など
→ 銅の移動・分離を促進
● 流れやすい釉にする
CaO多め
粘土分少なめ
→ 表面に銅が集まりやすい
2. 焼成条件での工夫
● 還元を強めに入れる
特に:
1000℃〜最高温度直前
効果:
銅が
CuO → Cu₂O → Cu⁰ に近づき
表面へ移動
● 焼成温度はやや高め
銅を十分に動かすため
釉が溶けすぎる直前まで
3. 冷却での工夫(重要)
● 急冷気味にする
最高温度から比較的早く冷却
800℃以下で窯を締め切る/開ける
結果:
表面に集まった銅が
一気に再酸化 → 被膜化
● 再酸化を意識する
冷却途中で少し酸素を入れる
窯焚きなら口焚きを使う
→ 黒・赤・金属的変化が出やすい
4. 被膜を出すまとめ
銅を多く
不安定な釉
還元強め
急冷+再酸化
「銅を表に追い出す」発想です。
使い分けの考え方
| 狙い | 方針 |
|---|---|
| 美しい緑 | 銅を釉に溶かす |
| 荒々しい景色 | 銅を釉から追い出す |
もしよければ、
使っている灰の種類
焼成(電気・ガス・薪)
温度帯(何℃)
を教えてもらえれば、かなり具体的な配合例まで落とし込みますよ。